山陰中央新報社は1942年1月1日の島根新聞発刊以来、日々紙面を発行し、17日に紙齢3万号を迎えました。交流サイト(SNS)の台頭などで新聞は新たな時代に突入しましたが、記者が地域の人々と会い、事実を伝え、よりよい地域づくり、読者の皆さんのよりよい暮らしを支える地方紙の役目は変わりません。これからも地域の声を丁寧に拾い、育てていく「声で耕す。」をコンセプトに3万号までを振り返り、新聞の原点を見つめ直します。
 

言葉は、地球史の中で登場した最も凶悪な武器かもしれない。

一生立ち直れないほど、人を傷つけるだけの破壊力を持ち、一国が滅びるほど、人びとの黒い感情を煽りたて、一個の惑星が滅びるほど、自然を破壊することだってできる。ただの空気の振動だったり、インクの染みだったりするのに、言葉って、やっぱり怖い。

けれど、待ってほしい。そんな凶器を滅ぼすことができるのも、言葉でしかない。扇動を破り、欺瞞をくじき、生きることを諦めかけていた人に、とんとんと肩をたたいて、こっちだよと道を示すのも、言葉でしかないはずだ。

そんな言葉は、書いて出てくるものじゃない。湧いてくるんだ。

歩いて、立って、座って、聞いて、待つ。まるで地中からひょっこりあらわれるモグラのように、泥にまみれた言葉が湧くまで、粘りづよく。

湧いてきた言葉をとらえた人は、そっと抱きとって、別のところに届ける。泥のにおいが染みついた言葉だけが、威勢のいい、人を操作するために製造された言葉を打ちくだき、受け手の心をゆっくりと耕しはじめる。

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文・藤原辰史氏

 ふじはら・たつし 京都大人文科学研究所教授。本紙「羅針盤」執筆者。北海道生まれ、出雲市、島根県奥出雲町育ち。横田高、京都大を経て同大大学院人間・環境学研究科博士課程中退。2025年4月から現職。専門は農業史、環境史。『分解の哲学』でサントリー学芸賞受賞。48歳。

 

あの時の君は今・・・


 毎日の紙面では次代を担う若者たちを取り上げてきた。優れたアイデアで社会的に注目され、地域を変えようと一歩を踏み出した若者たちはどんな道を歩み、どんな将来を描いているのか。「あの時の君は今…」と題して、過去に取り上げた若者にあらためて話を聞いた。

時代に合わせ終わりと向き合う 学生時代に葬祭関連会社を立ち上げ掲載 前田陽汰さん(24)

隠していた自分、今は武器に 母が四つ子を出産し掲載 浦上慧伍さん(22)

誰かのために思いは今も 意見集約サービスを提供するMondを立ち上げ掲載 板垣翔大さん(27)

まだ若手、失敗したっていい 「若手農業女子」としての活躍掲載 石橋(旧姓三宅)智子さん(36)
 

読者と歩んだ83年


 一つの記事がきっかけとなり、ある人の人生を変えることがある。自分が書いて掲載された記事が周りに感謝され、勇気をもらうことがある。新聞が転機となった人を紹介する。

 

オーナー募集広告見て起業を決意 野津積さん、「モルツウェル」事業全国へ 松江

指定難病患う娘の育児コラム反響 山根温子さん、障害者理解広める一歩に 出雲
 

興奮の現場、葛藤・・・ 忘れられないデスクのあの時


 山陰中央新報社は地方紙だ。政治・行政、経済、文化、スポーツ…。地域に根付き、山陰両県の話題は他のどのメディアより知っている自負がある。デスクを務める4人が、紙齢2万号(1997年8月2日)から17日に迎えた3万号までの間の忘れられない出来事の「あの時」を振り返り、これからの向き合い方を考えた。

「はだしのゲン」閲覧制限問題 批判浴びても真相報じる 2013年8月16日付

歴史刻んだ世界の錦織 全米オープンテニス準優勝 2014年9月10日付

世紀の瞬間、立ち会い感慨 石見銀山の世界遺産登録 2007年6月29日付

政治主導の交渉を期待 「竹島問題」と日韓外交 2005年3月17日付


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表紙の撮影者

 写真、キャッチコピー・日下慶太氏

 くさか・けいた コピーライター、写真家。本紙「羅針盤」執筆者。大阪府生まれ。神戸大卒。元電通社員。広告の力で地域課題の解決を模索する。著作に『採U記』『迷子のコピーライター』、写真集『隙ある風景』。49歳。

 【撮影地】

写真上・松江市八束町波入のレンコン畑

写真下・島根県奥出雲町三所の棚田と古民家