被害に遭った水田で残った稲を確認する早川正三さん=雲南市三刀屋町六重
被害に遭った水田で残った稲を確認する早川正三さん=雲南市三刀屋町六重

 7月の記録的豪雨で被災した雲南市内でコメ農家が頭を抱えている。例年であれば稲刈りの時期を迎えるが、濁流にのまれた水田は跡形もなくなり、取水設備が壊れた場所では稲の生育不良が相次ぐ。かろうじて残った稲穂の収穫に望みをつなぐものの、台風シーズンの到来を前に身構える。

 「何から手を付ければいいのか分からない」

 市街地から約10キロ南の山あいに位置する三刀屋町六重で8月下旬、稲作を営む早川正(ただ)三(み)さん(70)が変わり果てた光景にため息をついた。

 地区内を流れる飯石川沿いの水田は濁流で大半の土地が削り取られ、稲が押し流された別の水田には大小の石や流木が散乱。取水施設が壊れた場所では稲が穂を出す7~8月に水を引き込めず、収穫ができなくなった。

 早川さんが代表を務める六重営農組合(38戸)の被害規模は甲子園球場(兵庫県)の面積に匹敵する4ヘクタールに及び、「一部の田んぼはもう手放すしかない。担い手が高齢化する中、とどめを刺されるようだ」とうなだれた。

 7月の豪雨はこれまでの自然災害とは桁違いの農林水産被害をもたらした。「記録的短時間大雨情報」が発表された雲南市内の被害総額は115億円に上り、このうち三刀屋町内では少なくとも取水施設25カ所、水路330カ所が損壊。市の基幹産業に計り知れないダメージを与えた。

 市は流入土砂の撤去費用の一部を支援する方針を示したが、定例会見で石飛厚志市長は「完全な復旧までには相当な時間が必要となる」と説明。対処に手間取れば、15年前に比べて35%減の3256戸となった市内農家の減少が加速しかねない。

 六重営農組合は近々、大きな被災を免れた水田で稲刈りを始めるが、侵入防止柵の破損箇所から入り込んだイノシシに稲を荒らされる被害が続発する。台風で再びまとまった雨が降れば応急補修にとどまる水路や道路が崩れる恐れもある。豪雨被災から1カ月半が過ぎてなお影響が続く。 (清山遼太)