自宅療養の流れを説明する島根県健康福祉部感染症対策室の田原研司室長
自宅療養の流れを説明する島根県健康福祉部感染症対策室の田原研司室長

 新型コロナウイルスの感染者が今、全国で増え続けている。東京都など人口が多い都市圏では病床が不足し、患者が入院できず自宅療養中に亡くなるケースが出ている。山陰両県では当初、全員入院を原則としていたが、感染者が増え始め、両県ともに自宅療養を含めた対応に転換した。

 もし、感染して自宅療養となった場合、家族と暮らしている人はどう過ごすのか、1人暮らしの人はどうしたらいいのか、不安は尽きない。具体的な自宅での療養方法について、島根県健康福祉部感染症対策室の田原研司室長に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 島根県の8月の県内の感染者数は、これまで月別で最多だった5月の3倍以上となる629人。鳥取県の8月の感染者は計658人で月別最多の7月の約2倍となり、両県ともに7月下旬から増加の一途をたどっている。鳥取県は7月下旬から、島根県は8月中旬から重症化リスクの低い無症状、軽症者を対象に、入院をしない自宅療養を取り入れ始めた。

島根県の7月と8月の新型コロナウイルス感染者数のグラフ(島根県提供)

 

 ▼軽症で重症化リスク無い患者が対象
 現状、山陰両県の感染者は医療機関に入院して治療するのが原則。自宅療養になるのは感染者本人が医療機関に無症状か軽症と診断され、重症化の恐れが低い場合。保健所が聴き取りをして、▽高齢者▽妊婦▽肥満▽糖尿病―など、重症化の恐れがある特徴の計11項目に当てはまらず、本人が自宅療養を希望した際に限っている。

 軽症で項目に当てはまらなくても、同居者に高齢者や基礎疾患を持つ人がいる場合や家に感染者を隔離する部屋が無い場合は入院、宿泊療養が基本だ。

 しかし、この措置は山陰両県が都市圏と比べて感染者が少なく、病床に若干の余裕があるからこそ成り立っている。現に都市圏では病床が足りず、患者に基礎疾患があるにもかかわらず軽症だったため自宅療養となり、容体が急変して死亡した例があった。両県でも感染者がさらに増加して病床を圧迫すれば、基準の変更を余儀なくされる可能性がある。

 感染者数の抑制が最も大切なことだが、万が一に備え、自宅療養となった場合の療養の流れを確認した。

 

 ▼1人暮らしの生活用品は宅配で
 まず、1人暮らしで感染した場合を想定する。

 当然、感染が判明した後は外出禁止になり、人との接触はできない。家から出られず、人を招き入れることもできないとなると、最も懸念されるのは食料をどうするかだ。

 島根県感染症対策室・田原室長「県が10日程度分の食料や生活用品を宅配で送る。荷物は家の前に置き、宅配業者と感染者が接触しないようにする。チャイムを鳴らすか、業者の到着時間を事前に把握している県が電話連絡をして宅配の到着を知らせる」。

 食料品はカップ麺、レトルトパック、缶詰、野菜スープ、お菓子、水、野菜ジュースなどが宅配されるほか、生活用品としてマスク、ティッシュ、消毒剤、使い捨て手袋、液体石けんといった、最低限生活に必要な物が県や市町村から配布される。アレルギーがある場合は特定の食料を除くことができ、もし物資が底をついた場合はすぐに県が補てんする。必要な薬がある場合は県がかかりつけ医に依頼して処方してもらい、届ける。
 

島根県から宅配で送られる食料品。約10日分のレトルト食品やカップ麺、缶詰が入っている。
マスクや消毒液、トイレットペーパーといった生活用品も一緒に宅配される。

 保護態勢が手厚く、軽症者は外出できる体力があるため忘れてしまいそうだが、自身が感染者であることを肝に銘じて自宅で生活を送らなくてはならない。

 

 ▼容体急変に備え24時間対応
 千葉県では8月中旬、1人暮らしの20代男性が自宅療養中に死亡した例があった。1人暮らしの場合、容体が急変しても気付く人がいない。医療機関や県との連絡系統はどうなっているのだろうか。

 田原室長「地域の訪問看護ステーションの看護師が、症状にもよるが1日1~4回は容体確認の連絡を入れる。場合によってはオンライン診断で顔色や呼吸の様子を確認し、訪問診療をする。もちろん感染者からも連絡できるようになっており、24時間態勢で対応する」

 関係者から定期的に連絡が入り、もし応答が無ければ県が即座に救急隊に通報する。感染者本人も異変を感じたらいつでも連絡できるならば精神的に安心できそうだ。

 感染者が自身の容体を正確に把握するために、血中の酸素飽和度を測る医療機器「パルスオキシメーター」を貸し出す。クリップのような機械で指先を挟むだけで血中酸素飽和度が分かり、自覚症状が無くても測定結果が96%未満であればステーションに連絡し、即座に入院する。

 山陰両県では血中酸素飽和度96%未満の「中等症」以上を即入院としているが、全国では軽症から重症化した患者がいる。田原室長は「1人暮らしの人は特に、少しでも異変を感じたら連絡してほしい」と呼び掛けた。

 

 ▼家族1人が世話担当に
 感染者が家族で暮らしていた場合はどうだろうか。

 自宅に高齢者や基礎疾患を持つ人といった重症化の恐れが高い人がいる場合は、検査で陰性が判明した上で、県が確保している宿泊施設に避難してもらう。重症化の恐れがある人の宿泊費用は県が持つが、それ以外の人は自費で避難しなければならない。

 同居する家族がいる場合、感染者は専用の個室で生活する。2階建ての家なら2階を患者専用としてもよい。

 食事の用意など感染者の世話は家族1人が担当し、感染者と家族は普段の生活をすべて別々に行う。1人は濃厚接触者となるが、感染者と同室の際は両者が必ずマスクをし、換気をした上で互いに最低2メートルの距離を取るなど感染対策を徹底する。家族も感染者と同様、外出を自粛する。

 

 ▼トイレは毎回消毒、風呂は一番最後
 家庭生活で避けて通れないのが洗面所やトイレ、風呂だ。すべてが家に別々にあれば患者専用にできるが、そんな家は少ないだろう。

 感染者が部屋から出る際はマスクの着用が必須。洗面所とトイレは使用時に換気をした上で1回使うごとに感染者が消毒し、風呂は家族の中で一番最後に入る。ウイルスは水場では長時間活動できないため、風呂は消毒する必要がない。このほか、消毒作業や鼻をかむことで感染者が出したごみはビニールに包んでごみ袋に入れ3日以上保管して捨てるなど、一挙一動に神経を使う必要がある。

 連絡系統やパルスオキシメーターの配布は1人暮らしと同様。世話をする人がいる分、重症化を見落とす可能性は低いものの、感染者を含め家族での注意点はかなり多くなる。

 

 ▼病床確保のためいま一度徹底を
 島根県によると、8月末時点の入院患者数は135人で、すぐに患者対応できる病床は258床。ただ宿泊、自宅療養者、入院調整中の患者が130人おり、いずれかが容体の変化で入院に転じる可能性がある。そんな中で、感染者は日々出続けているのが現状だ。

 島根県は早い段階から入院無しの自宅、宿泊療養を取り入れたため軽症者かつ希望者のみが自宅療養となっている。自宅療養の今の基準は都市圏と比べて病床に若干の余裕があるという状況下で成り立っていることを忘れてはいけない。

 学校が2学期に入り、子どもの移動が増えたことで家庭内感染の危険性も増すと思われる。必要とする人が全員入院できる程度の病床を確保できるよう、いま一度、一人一人が感染防止の意識を徹底し、感染拡大を食い止めることが最も大事だ。