地元の消防団員に見守られながら放水訓練をする菅浦消防協力隊のメンバー=松江市美保関町菅浦
地元の消防団員に見守られながら放水訓練をする菅浦消防協力隊のメンバー=松江市美保関町菅浦

 松江市島根町加賀で4月に発生した大規模火災を受け、郊外集落での初期消火体制の整備が急務となる中、消防団OBらでつくる自主的な消防組織の存在感が増している。万一のときに、到着に時間がかかる常備消防や日中に不在がちな消防団員に代わってホースを握り、交通整理や日頃の器具点検など後方支援に当たって地域を守る。 (森みずき)

 「放水始め」。美保関町菅浦で5日、小林邦彦隊長(69)の合図を受けた年配の消防協力隊員が海に水を放った。放水の反動で姿勢が崩れないよう常備消防と同じ口径65ミリのホースを2人がかりでしっかりと握った。

 1993年に発足した協力隊のメンバーは消防団員の経験者を含む60~70代の11人。2カ月に1度の訓練を欠かさず火災に備える。

 最寄りの市北消防署東部分署(美保関町下宇部尾)からは5キロほど離れ、集落の路地は狭く、大型のポンプ車が入れない。小林隊長は「風があれば5分もかからず一帯に燃え移る。ケース・バイ・ケースだが、初期消火に当たり、消防が到着すれば譲る」と役割分担を徹底する。

 地元消防団は市街地の職場に勤める団員が多く、担い手不足も深刻。かつては20人近くいたが、今は7人を維持するのがやっとだ。美保関方面団菅浦班の山根直也班長(50)は「仕事中に電話があり、飛んで帰ったこともある。協力隊の存在は心強い」と喜ぶ。

 消防団は消防組織法や自治体の条例に基づいて設置される。団員は非常勤の地方公務員となり、専任職員の常備消防と連携し、火災の対応に当たる。一方、菅浦のようなOBらによる協力隊は法や条例の定めはなく、消防団にも属さない。自主防災組織とも異なる任意団体で、島根県内にどれくらいあるかは自治体や消防も把握していないが、松江市郊外で散見される。

 消火の前面には立たずとも、後方支援に一役買う隊もある。宍道町内の「ブルー消防隊」は消防車の支度や交通整理、水利確保に力を発揮する。メンバーは40代後半から60代で、本常智事務局長(62)は「コロナ禍で集まっての訓練は難しいが、先輩がつくったつながりを生かして地区を守る」と意気込む。

 常備消防の組織再編をきっかけに生まれた隊もある。東出雲町下意東の「自主消火隊」は2017年に結成された。市南消防署の東出雲、八雲両出張所が統合されて南部分署(八雲町東岩坂)となり、住民が常備消防の到着遅れを懸念したことがきっかけだ。

 消火訓練のほか、水利の悪い地域を洗い出し、消火栓を開ける専用道具を点検して買い足した。安達公一代表(73)は「ホースの長さが足らず消防に貸した経験もある。消火活動には民間の力を借りるべきだ」と力を込める。