日米開戦を前にハワイに送り込まれた日本海軍のスパイ吉川猛夫は、運転手の三上嘉会と共に真珠湾や各基地を偵察、情報の精度を高めていった。ただ、吉川は機密保持のため、自身の身分と任務を三上や在ホノルル日本総領事館員に明かさず、周囲は吉川に対する不信を強めていった。共同通信が入手した、三上を聴取したアメリカ連邦捜査局(FBI)の捜査資料からは、吉川との生々しい人間関係も浮かび上がる。
吉川に目を付けながら摘発に至らなかったアメリカ。吉川が自白しない中、三上の口を割ることが捜査の鍵となった。(敬称略、共同通信=新里環)
▽渦巻く不信
「昼間の表向きの仕事をすませて、出かける。夜は、下町に出て町に氾濫する白服の水兵を物色していっしょに酒を飲む。深夜に帰ってただゴロリと寝る」(吉川の著書より)。情報収集に明け暮れた吉川は、機密保持のため、本来の身分や任務を周囲に隠していた。事情を知らない総領事館の職員らは、遊んでばかりに見え...













