車椅子などから立ち上がるのを電動で補助する福祉機器「スカイリフト」
車椅子などから立ち上がるのを電動で補助する福祉機器「スカイリフト」
介護職員、家族・親族らによる高齢者への虐待件数の推移
介護職員、家族・親族らによる高齢者への虐待件数の推移
「本当の意味での親孝行を皆さんと一緒に考えたい」と川内潤さん
「本当の意味での親孝行を皆さんと一緒に考えたい」と川内潤さん
車椅子などから立ち上がるのを電動で補助する福祉機器「スカイリフト」 介護職員、家族・親族らによる高齢者への虐待件数の推移 「本当の意味での親孝行を皆さんと一緒に考えたい」と川内潤さん

 高齢者虐待防止法が施行されてから今年4月で15年が過ぎた。厚生労働省は対応強化を呼び掛けているが、虐待件数、相談・通報件数はともに増加傾向が続いている。専門家らに防止に向けた取り組みについて聞いた。

 「親孝行の気持ちが虐待の根源。心理的にも、物理的にも親子の距離を取る必要がある」。介護支援のコンサルティング業務を手掛けるNPO法人「となりのかいご」(神奈川県)の代表理事、川内潤さん(41)は、親の介護に子どもが一生懸命になり過ぎることが虐待の背景にあるとみる。

 厚労省の2019年度の調査で、虐待をした家族・親族らでは息子が最も多く、娘と合わせると約6割に上った。また、虐待は同居している場合に、そのほとんどが発生している。

 「怒りをひたすら抑えて爆発するのが一番危ない」と川内さん。時には親に感情をぶつけることがあってもいいが、同時にその頻度を減らす仕掛けが必要という。

 例えば、介護離職をしないことだ。在宅で受けられる介護サービスを利用しながら日中は不在にすることで、親との距離を保て、みとった後の生活への不安も減らせる。新型コロナウイルス禍で出勤できない場合は自宅ではなく、シェアオフィスなどを利用する。

 「何でもやってあげると、親はできることもしなくなり、介護のタスク(仕事)が増える。テレワークで介護をしやすくなったことが、逆に虐待のリスクを高める」

 一方、厚労省の調査で介護職員による虐待は19年度に644件に上り、過去最多を更新した。理由は虐待に当たるとの認識が乏しかったことや職員のストレスなどだった。

 介護現場で働く職員の負担を少しでも減らし、不適切なケアを未然に防ごうと、特別養護老人ホーム「かないばら苑」(川崎市)は積極的に福祉機器の利用を進める。

 福祉用具メーカー「アイ・ソネックス」(岡山市)が製造する「スカイリフト」も、その一つだ。入所者が車椅子やベッドから立ち上がるのを補助する電動の機器で、同苑では16年に導入。現在7台を所有し、さらに2台の購入を予定する。

 「介護職は大変な激務で、精神的なストレスも高い。体を持ち上げるのは機械に任せ、心情に寄り添うケアができれば」と、苑長の吉野英明さん(49)。

 入所者が玄関に近づくと、職員に知らせる顔認証カメラも設置した。入所者が施設内を自由に移動できるようにしつつ無断外出を防ぎ、職員の見守りの負担を軽減している。苑長代理の依田明子さん(63)は「介護の世界は余裕が大事。職員が追い込まれての不適切なケアが減れば減るほど、虐待は遠ざかる」と話す。

 

▼高齢者虐待防止法 高齢者に対する虐待の防止や早期発見、対応を目的にした法律で、2006年4月1日に施行された。暴行を加えたり、長時間世話をせずに放置したりするケースの他、無視や嫌がらせ、日常生活に必要な金銭を渡さないことも虐待に当たる。家族や親族によって虐待を受け、生命や体に重大な危険が生じている高齢者を発見した場合などに市町村への通報義務が定められている。