2012年9月の尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化から9年。尖閣の領有権を主張する中国は今年2月、海上警備当局に武器の使用を認めた法律を施行し、尖閣周辺で日常的に公船を航行させるなど日本の実効支配をけん制する。

 米中確執が先鋭化する中、米国も防衛義務を持つ尖閣の問題は中国の台湾への武力威嚇、香港や新疆ウイグル自治区の人権侵害などと並ぶ日中間の深刻な対立点だ。

 領土争いは双方の国民感情を容易に刺激し、関係を悪化させる。漁船や公船の不測の事故も心配だ。日中両国は外交、防衛、海上警備など関係部門の対話を活性化し、対立の解消に向けた道筋を探るべきだ。

 尖閣国有化後、中国全土で大規模な反日デモが起き、日中関係は著しく冷え込んだ。翌13年12月、当時の安倍晋三首相が靖国神社を参拝して関係はさらにこじれた。

 14年11月、両国は尖閣問題について「対話を通じて情勢悪化を防ぎ、不測の事態の発生を回避する」などの4項目に合意。17年6月、安倍氏は中国の習近平国家主席が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」を支持して関係を改善し、19年には習氏の国賓来日に合意した。

 しかし、新型コロナウイルスのまん延で20年の習氏来日は延期され、米中対立の激化や中国の海洋進出、人権侵害などで日中関係は再び悪化した。

 1972年、尖閣を含む沖縄の施政権は米国から日本に返され、日中は戦争状態の終結を確認し、恒久的な平和友好関係の確立に合意した。来年は沖縄返還と日中国交正常化から半世紀。この節目に向けて何とか両国関係の改善を進めたい。

 昨年、尖閣周辺の接続水域を中国公船が航行した日数は333日で国有化以来最多。今年も8月末までに225日と昨年を上回る勢い。領海侵入は8月末までに34日で、既に昨年の29日を超えた。ただ、侵入の大部分は領海で操業する日本漁船の追尾が狙いで、漁船の半数は尖閣領有を誇示する保守派政治団体関連だった。漁船の追尾ではない領海侵入は4~5日。この点は冷静に分析したい。

 日本側も漁業でなく政治宣伝が主目的の船の尖閣接近は認めていない。石垣市は住所を記した標柱を尖閣に設置しようとしているが、加藤勝信官房長官は尖閣の「安定的な維持管理」のため上陸を認めない方針を示した。

 中国の禁漁期間が8月に明け、中国漁船の尖閣行きが懸念されたが、領海侵犯は伝えられていない。日中両国は共に一定の自制心を保っているようだ。

 言論NPOの世論調査によると、中国に「良くない」印象を持つ日本人は12年から昨年まで9割前後で推移し、理由は「尖閣などへの領海侵犯」が多い。中国は日本の世論を重く受け止めて、尖閣周辺の示威的な公船航海をやめるべきだ。

 菅義偉首相は4月、バイデン米大統領との会談で、尖閣について「米国の防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象」との言葉を改めて引き出した。防衛省は2022年度予算に石垣島へのミサイル部隊新設などを盛り込んだ過去最大規模の概算要求を行った。武力抑止だけに傾けば、軍拡競争を招く「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。理性に基づき、共生を目指す前向きな対話を進めたい。