健康志向の高まりとともに広がった“お酢ドリンク”市場が、転換期を迎えている。2021年頃に市場がピークを迎えた後、ブームで流入したライトユーザーの離脱などもあり、現在は縮小傾向にあるという。機能性飲料が飽和するなか、「体にいいから飲む」という理由だけでは選ばれにくくなっているのが実情だ。こうした変化を現場ではどう受け止めているのか。江戸時代から酢づくりを続けてきた老舗メーカー・ミツカンに、お酢ドリンク市場の現在地と注力ブランド『フルーティス(TM)』リニューアルの背景を聞いた。
【写真】”酢”から”果実”がメインに…2020年からの『フルーティス』パッケージ変遷
■お酢ドリンク市場は2021年ピークで縮小傾向…“酸っぱくてキツイ”が壁に
「お酢ドリンク市場は2021年頃をピークに縮小傾向にあり、ずっと厳しい状況が続いてきました」。こう話すのは、1804年創業の酢づくりの老舗・ミツカンのマーケティング担当・田中菜々美さん。
2021年といえば、コロナ禍により緊急事態宣言が度重なり発令された年。健康への意識の高まりから、「なんとなくお酢って体にいいよね」と手に取る人や、若い女性を中心に韓国発の果実酢がブレイクしたことなどから、お酢ドリンク市場の売上高はピークを迎えたのだ。
しかし、トレンドは移り変わるもの。ブームで流入したライトユーザーはその後、第4次ブームを迎えた豆乳や、抗酸化作用による美容効果が話題となったトマトジュースへと流出。お酢ドリンクは、その味と効果が気に入って今も継続購入しているファンが一定数いるものの、市場は縮小の一途を辿ってきたという。
田中さんが担当する『フルーティス』も影響を受けたブランドのひとつ。2020年に“フルーティーでおいしいりんご酢ドリンク”と銘打ち、ミツカンのお酢ドリンクラインナップに加わったが、翌年をピークに人気は横ばい。味わいやフレーバー、パッケージの変更など、あの手この手で策を講じてきたものの、人気を取り戻すことはできなかったという。その背景にある、お酢ドリンクの最大の課題が「酸味」だった。
「消費者インタビューを行うと、『酸っぱくてキツイけど、体にいいと言われるから頑張って飲んでいる』というように、お酢ドリンクを飲むことを“苦行”のように感じているという声が多く聞かれました。その結果、酸味が合う人は継続するし、合わない人は離脱していることがわかりました」(田中さん/以下同)
しかし、そもそも、お酢は本当に体にいいのか? 酢の主成分である酢酸には、“食後の血糖値の上昇を抑える” “肥満気味の人の内臓脂肪減少”“高めの血圧低下”“運動後に生じる疲労感の自覚軽減”の4つの力があることが報告されているという。
『フルーティス』はその効果を訴えるべく、2023年に肥満気味の方の内臓脂肪を減少させる機能性表示食品へとリニューアルしたのだが、それでも人気を取り戻すことはできなかった。その要因にはこんな時代背景もあった。
「コロナ禍の収束とともに、感染リスクを減らすために『健康でいなければならない』という強い意識が逆効果となって心身に疲れを生じる“健康疲れ”に陥る人が増えたことが話題となりました。そのことからも、健康にいいからだけでは飲み続けられない時代になったのだと感じました」
その他にも、コロナ禍を機に機能性表示食品が大幅に増加しことに加え、物価上昇も手伝って、消費者の健康飲料を選択する目はシビアになっている。酸っぱさがネガティブと捉えられがちになったお酢ドリンクにとって、「体にいいから飲まなきゃいけない飲料」から、「美味しいから好んで飲む飲料」への転換が求められる時代になったといえる。
■社内外で「もう厳しいかもしれない」の声も…若手社員が挑んだ“名前以外すべて変える”決断
そんな時代に挑むべく、田中さんら『フルーティス』チームは、大幅なリニューアルを模索。そこには2年前に入社し、『フルーティス』に関わることになった田中さん個人のこんな思いも息づいていた。
「私は甘い飲料や果実ジュースを飲みたいと思っても、甘さが後に残る感じが苦手でいつもお茶と水しか飲んでいませんでした。ところがミツカンに入社して『フルーティス』を知って、甘いけれど後味がスッキリしているところや酢の健康機能に感動し、この価値を廃らせてはいけないと思ったんです」
しかし、予算や時間をかけて大幅なリニューアルを行うことについては、いくつものハードルがあったという。まず一番が社内における『フルーティス』の悲しい立ち位置だった。
「『フルーティス』はピークからずっと下火状態が続いていて、社内外から『フルーティスはもう厳しいかもしれない』という声が上がっており、諦められかけていたブランドでした。それまで何をやってもダメだったという印象が強かっただけに、『なんで今さら?』というような空気が社内にあり、理解を得ることが最初の関門でした」
そこで、提案したのが、「ブランド名以外はすべて変える」という大胆かつ大幅なブランドの再定義だった。その大きな柱となったのが、これまでのお酢を全面に出した設計から、お酢を果実の美味しさを引き出すための縁の下の力持ちとし、“健康のためのお酢ドリンク”から“新・果実体験が楽しめるリフレッシュドリンク”へと一新すること。
これは、料理人たちが用いている料理にお酢を加えることで美味しさが高まる“隠し酢”の考え方が基。「フルーティアップ製法(TM)」と名づけたこの製法で、“酸っぱさ”が際立っていた従来の味から“すっきりとした甘みとジューシーな果実感が楽しめる”ドリンクへと変身させた。
もちろん、お酢づくりの老舗であるミツカンにとって、お酢が主役ではないお酢ドリンクは異色な存在。そのため、ベテラン社員の力も借りながら、若手マーケターが中心となり、全国の営業拠点を廻って対面で丁寧に説明し、理解を得られるよう価値を伝えることに尽力したという。
「今、甘いものを飲みたいけれど我慢してしまっている人や、私と同じように甘い後味が苦手という方は多いと思います。『フルーティス』は、厳選した果実を後味さっぱり美味しく飲めるドリンクに仕上げるために味の微調整を何回も繰り返しました。家事や仕事や育児など多忙な毎日を過ごされている方々にとって、『フルーティス』が休憩時間や隙間時間にスッキリできて、また次の活動への力を養うスイッチのような存在になれたらと思っています」
■くすんだピンクやグリーンの“攻めた”パッケージ 「果実を主役に、お酢は脇役に」の発想で刷新
大胆なリニューアルはパッケージも同じ。ここにも若手のアイデアが活かされているという。
「メインターゲットである大人の女性にどういうデザインが刺さるのかを研究するために、デザインチームは新大久保に韓国コスメを見に行くなど、今の流行をいろいろな角度からリサーチしました」
こうして完成したのが「果実のおいしさを最大限に表現し、これまでのミツカンの商品にはない色使いをした」と田中さん自慢のパッケージ。くすんだピンクやグリーンなど、これまで飲料にはあまり用いられてこなかった背景色やデザインは社内でまたまた議論の的になったというが、若手の熱い思いが受け入れられ、結果「ひと目見てカワイイなって思えるデザインにできた」と胸を張る。
ちなみに、リニューアルされた『フルーティス』は、機能性表示食品ではないため、健康効果は謳っていない。それでも、「普通のジュースよりは健康感があるというところをさりげなくアピールしたかった」という思いから、パッケージには果物名とともに「リンゴ酢」の文字を表記。酢の存在を全面に出さないというコンセプトから、その文字を入れるか入れないかはギリギリまで悩んだ結果の決断だった。
同社のお酢ドリンクのラインナップを見ると、酢酸750mg含有というお酢の力と味を最大限活かした特定保健用食品の『マインズ』もあれば、機能性表示食品『黒酢ドリンク』シリーズなどもある。そんな中、お酢をあくまで果実の味を際立たせるための脇役として使用し、「かつてお酢ドリンクを飲んでいたけれど離れてしまったという人やお酢ドリンクを知らない人にまで、幅広く届ける飲料」として新たな開発に挑んだ田中さん。
お酢を“酸っぱい=苦行”から“美味しい=楽しい”に変えた『フルーティス』は、お酢ドリンク市場に定着した「飲まなければいけない」から「好んで飲む」の初めの一歩になるのかもしれない。
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