犬や猫などペットを飼う社員が対象の福利厚生制度を導入する企業が増えている。死んだ際の忌引休暇や同伴出勤、手当支給など内容はさまざま。「ペットも家族の一員」と考える傾向の高まりが背景にあるようで、働く意欲の維持や社内コミュニケーションの増加などに一役買っている。
「お見送りの時間をしっかり持てたことで、気持ちを切り替えて仕事に臨めた」。8月に16年間連れ添った愛犬を失ったペット保険大手「アイペット損害保険」(東京)の喜山かなみさん(35)はこう振り返る。
利用したのは、同社が2016年に始めたペットの死で有給休暇を取れる「ペット忌引」。喜山さんは愛犬が死んだ火曜日を含め、平日に計2日間取得した。好物のリンゴと肉を供えて火葬した時は、思い切り泣いた。「悲しみを吐き出す余裕がないと喪失感が長引くとも聞く。職場の理解が本当にありがたかった」と語る。
同社にはペットと過ごすための「ペット休暇」もあり、ウサギやカメなどの小動物にも適用。制度導入以降、離職率は半減した。広報担当の森田美紀さんは「部署問わず、社員同士のコミュニケーションが増えた。多様化する家族の形に寄り添い、安心して働ける環境をつくりたい」と話す。
犬の情報サイト「INUNAVI」が7月に愛犬との死別経験を持つ10~60代の325人に調査したところ、精神的・身体的な不調に陥る「ペットロス」を経験した人は約9割に上った。業界団体「ペットフード協会」の推計では、20年の犬と猫の飼育数は全国で計1813万匹。同年の15歳未満の子ども1512万人を上回り、少子化・核家族化に伴い、ペットを家族同様の存在と捉える考え方が広まっている。
動物関連以外の企業でも導入の動きが出ている。システム開発会社「ファーレイ」(東京)では、00年に猫と一緒に出勤できる制度を採用。猫好きの創業メンバーが自宅に置いていけないと連れてきたことがきっかけだ。同社の福田英伸社長(50)は「猫がいると自然と会話が生まれ、雰囲気が和む」とほほ笑む。
社員の半数以上が、さまざまな事情で保護された猫を飼い、月5千円の「猫手当」も支給する。会員制交流サイト(SNS)で話題となり、求人への応募が増えたり、関心を持つ企業が顧客になったりと、思わぬ好影響をもたらしたという。
恋愛・婚活サイトの運営会社「エウレカ」(東京)も16年にペットの同伴出勤制度を導入。アレルギーを持つ人や苦手な人にも配慮し、社内に設けた一角でペットと過ごせるようにした。温泉旅館「滝の湯ホテル」(山形県天童市)は20年に犬や猫の忌引休暇を取れるよう就業規則を変えた。
◆公平さに配慮必要
企業福祉・共済総合研究所の黒田忠利理事長の話 ペット関連の福利厚生は社員の生活を支援する姿勢を明確にし、帰属意識や企業イメージを高めるほか、優秀な人材を確保するのに効果的だ。ただ、ペットを飼っていない社員との間で意識の隔たりもあり、働きやすい職場にするためにも、公平さを欠かないように配慮した制度設計が求められるだろう。