第49回衆院選が公示された。21日の衆院議員任期満了が迫るとはいえ、岸田文雄首相の就任からわずか半月での総選挙スタートには、就任早々の〝ご祝儀相場〟で支持率が高いうちに選挙を行った方が与党には得策という打算が透けて見える。

 対応が後手と非難を浴び、菅義偉前首相が退陣に追い込まれた新型コロナウイルスの感染者が減少しているうちにやってしまえば、批判票は少ないという読みもあったのだろう。いずれにせよ、有権者が軽視されているようで釈然としない。

 そう思ったのも、今夏に全国公開された、首相時代の菅氏を題材にしたドキュメンタリー映画『パンケーキを毒味する』を観賞したからである。菅氏の素顔や政治姿勢に迫っており、日本学術会議の任命拒否問題を巡り、官僚の原稿を読み上げるだけで要領を得ない国会答弁を詳細に検証。解説した上西充子・法政大教授の指摘は辛辣(しんらつ)だ。

 「(国民が)政治にうんざりするようなことが続いているが、うんざりさせるのはむしろ(菅政権の)作戦なんじゃないか。だって投票率低い方が安泰、高いと政治が動いちゃうかもしれないから」

 そこまで計算高いとは思えないが、与党にとっては、衆院選の投票率が低い方が野党に無党派層の票が流れず好都合なのは確かだろう。映画の中で投票率を高める方策を尋ねられ、ある自民党議員は「義務制にすること」と答えたものの「与党がそれを認めることはないだろう」と苦笑いを浮かべていた。

 与党の思惑が影響しているのかどうかは分からない。ただ、山陰両県の投票率も低下の流れをたどっている。

 過去の衆院選(選挙区)を見ると、島根は1993年が82・56%だったが、その後は80%を割り、2014年は戦後最低の59・24%までダウン。前回17年は60・64%に持ち直したが、都道府県別順位は4位で、1969年以来、16回連続で守った首位の座を明け渡した。鳥取も2014年(54・38%)に次ぐ2番目の低さの56・43%に終わった。

 近年、島根の衆院選で投票率が高かったのは05年(75・81%)と09年(78・35%)。

 後に「郵政選挙」と名付けられた05年は、郵政民営化を掲げた小泉純一郎首相が対立候補に「刺客」を差し向け、「小泉チルドレン」と呼ばれる多くの新人議員が誕生した。09年は、麻生太郎首相がリーマン・ショックへの対応に追われ、任期満了ぎりぎりの衆院解散となり、追い込まれた印象を与えたことで「政権交代ムード」が支配。民主党が300議席超の圧勝を収め、小泉チルドレンの多くが議席を失った。

 ともに「風」と呼ばれるブームが吹き荒れたのが特徴。投票率は上がった一方で、各党の政策が十分に周知されていたかは疑問が残る。

 今回の山陰両県の4小選挙区は、島根1、2区ともに3氏、鳥取1、2区ともに2氏の計10人が立候補。特に竹下亘氏が引退(死去)した島根2区は新たな議員が誕生することになる。

 12年前の政権交代ムードのような大きな風は吹きそうにないものの、喫緊の課題の新型コロナウイルス対策や経済再生など争点は多い。中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の再稼働の可否判断にも直結するだけにエネルギー政策も重要だ。風は吹かなくとも、今こそ政治に関心を持ち、投票に行こう。