「ガッ…チャン」

 仕事を終えた平日の夜9時半ごろ、息を殺して自宅の鍵を開ける。不用意な音は出せない。つま先立ちで玄関に入り、息をつこうとした矢先、壁一枚隔てた寝室からトコトコと駆け寄る気配が。「おかえりい!」。寝間着姿の娘が駆け寄ってきた。

 一日の終わりに子に会えたのはうれしいが、冷や汗もにじむ。寝入りかけた娘を自分が覚醒させてしまったためだ。

 「おかえり…」。薄暗い寝室から、ため息交じりの妻の声が聞こえた。

 帰宅が遅くなる日は寝かしつけの時間帯を避けなければならない。子が深い眠りに入ったタイミングが好ましいが、間の悪さが抜けない。

 これまで妻の記事で「父は何しているの?」「もっと家庭に関与しなさいや」と思った方がいらっしゃるかもしれない。何もなければ早く仕事を切り上げる。ただ、そうもいかない日があるのだ。私と同じ境遇の父母もいよう。仕事の紹介も踏まえ、少しだけ弁解したい。

 第2子(長男)が生まれて程なく、私は警察担当記者になった。日々の事件事故、社会ニュースに対応するため仕事の時間は不規則だ。担当替え直後の期間は特に大事な時期だと、仕事に傾注した。もっとも、後で聞いたが、妻はこの頃「子育ても大事な時期なんだけどなぁ」と思っていた。

 19年冬は大きな事件が相次ぎ、同業他社とのスクープ合戦になった。より多くの情報をつかもうと、取材相手と1対1になる「夜討ち朝駆け」をする。出勤や帰宅をする捜査関係者を家の前などで捕まえるのだが、帰りが遅く、2、3時間待つこともある。

 一方、わが家の寝かしつけの目標時間は午後9時。遊びに夢中で長風呂になりがちな娘の行動を逆算すれば、保育所から帰宅してからの就寝までの家庭内ミッションは息つく暇もない。だが仕事の繁忙期とも重なるジレンマがある。

 だから普通(?)に仕事をしていると、冒頭のような場面になりがちなのだ。それでも考える。父としてできることはなんだろう。せめて妻の足を引っ張るようなことはないように…。帰宅時の葛藤が続く。