多文化共生社会の実現は、衆院選で議論されるテーマの一つ。出雲市には山陰両県で最も多い約5千人の外国人が生活する。ともに暮らす上で言葉の壁は高く、日本語を学べる場はボランティアが支えており、体制が整っているとは言い難い。国は外国人の受け入れ拡大を図るものの、人種や言葉の違いを越えた社会の構築に向けた取り組みは、まだ途上にある。 (出雲総局・月森かな子)
ブラジルから来日して3年のオゴシラウラさん(25)=出雲市中野町=は今年、長男を出産し、日本語習得に向けて勉強を始めた。日常生活では日本語が話せる夫のカルロスさん(31)が頼りだ。出産時の入院中は新型コロナウイルス対策で面会が制限されたため、院内のやりとりはカルロスさんが電話で通訳。「一人で大変だった」と振り返る。
今後、保育園の入園などで日本語に触れる機会は増える。「生活面のことを一人でできるように、日本語を覚えないといけない」との思いに駆られる。
講師が会費負担
出雲市では現在、ボランティアなど計4団体が、日本語教室を開設。受講料は無料だ。
20年以上続く「ゆうわ」(鶴石一樹代表)は60~70代を中心に18人が無報酬で日本語を教える。テキスト代は市や島根県の助成を活用するが、講師自らが年1千円の会費を払い、運営に充てる。講師の新規加入はなかなかなく、善意だけに頼っていては継続が難しくなる可能性がある。
国は少子高齢化に伴う人手不足対策で、新たな在留資格を創設するなど外国人労働者の受け入れを拡大。2019年には、国内で暮らす外国人への日本語教育推進を国や自治体の責務とした「日本語教育推進法」が施行された。基本理念では希望する外国人に対し、日本語教育を受ける機会が最大限に確保されるようにしなければならないとするが、ボランティアに頼る地域の状況は大きく変わっていない。
しまね国際センターによると、県内の日本語教室は06年度の25カ所から21カ所に減少。20年末時点の県の調べでは、19市町村全てで外国人が暮らすが、教室のない自治体もある。
友達つくりたい
外国人が日本語を学ぶ目的は生活のためだけではない。ゆうわに通うブラジル人の佐藤・マルコス・テルアキさん(53)=出雲市白枝町=は「日本人の友達をつくりたい」と話す。
県が19年度実施した在住外国人実態調査で日本人と「積極的に交流したい」が66・4%(566人中376人)に上る。
人口の13%を外国人が占める出雲市斐川町の伊波野地区は、ポルトガル語、英語、中国語に翻訳した文書の配布や住民同士の交流機会をつくるなど、相互理解を深める取り組みを行う。ただこうした地域は一部にとどまる。
今年1月時点の日本の外国人人口は約280万人。日本の経済や社会は、既に多くの外国人によって支えられている。島根県外国人地域サポーターの堀西雅亮さん(51)=出雲市白枝町=は「国は外国人の受け入れ施策の指針や方向性をもっと国民に向けて発信し、理解を広げるべきだ」と訴える。