投打の二刀流で今季、大活躍した大谷翔平選手が米大リーグ、ア・リーグの最優秀選手(MVP)に選ばれた。
本塁打王にあと2本と迫る46本のホームランを放ち、100打点を挙げ、26盗塁を記録。投手としては9勝を挙げ、エンゼルスの先発陣を引っ張った。
大リーグはいま、選手の専門化と分業化が進む。その中にあって、二刀流ではつらつとプレーし、対戦相手を驚かせ、チームメートに笑顔の輪を広げ、多くの観衆とスポーツファンを魅了した。
ここまでレベルの高い二刀流の成功は誰も予想できなかった。不可能だと思われていたものを可能にした。だからこそ、野球の枠を超えた人気者になったのだろう。
20年前、イチロー選手がマリナーズに入団し、いきなりMVPに輝いた。巧みな打撃と俊足を生かした外野守備、さらに強肩ぶりで大リーグファンの心をつかんだ。
パワー全盛時代に繊細な技術とスピードで、ひと味違う野球を本場のファンに届けた。イチロー選手への拍手は、忘れていた価値を思い出させてくれたとの感謝の表現だった。
対照的に大谷選手はパワーの醍醐味(だいごみ)を見せつけた。今季は筋肉のよろいをまとっているかのような身体を作り上げ、勝負どころで160キロの速球を投げ込み、打席に立てば打球は外野フェンスを軽々と越え、140メートルほど飛ばすこともあった。
9年前の秋、岩手・花巻東高の大谷選手は大リーグ入りを希望し「投手でやっていきたい」と話した。
多くの日本の球団がその意向を尊重する姿勢を見せる中、日本ハムがドラフト会議で指名した。さらに投手と打者の両方で育てていく計画を提示する。これが決め手となり入団が実現した。
特別な才能を二刀流選手として育て、チームへの貢献度を最大化する作業はエンゼルスに引き継がれ、今季、それはまぶしいばかりに輝いた。
大リーグは攻守ともデータを駆使して戦うようになった。相手の弱点を突き、その長所を消す工夫が多重に編み出されている。
大谷選手が打席に入れば、相手チームはその打球の飛ぶ可能性が高いゾーンに選手を集めて守備を固める。大谷選手がマウンドに立てば、得意とする投球パターンや球種を、相手打者はかつてより高い確率で予測できるようになった。
そのような相手の周到な準備を力強さで打ち破っていった。まさに驚異的な活躍だった。
二刀流について日本国内では当初、懐疑的な見方があった。
そんなことをすれば、結局はどちらも中途半端になる。肉体的にも精神的にも疲れ、ただでさえ注意深く進めなければならない、長いシーズンでの調整にてこずるだろう。けがをしやすくなる、などなど。
それらの大部分は大リーグでも常識だったようだ。その壁を、大谷選手は好きだからやる、との思いで突き破った。
大谷選手に憧れる子どもは二刀流に挑む夢を抱くだろう。プロ野球も大リーグも、多彩な能力を持つ選手を見極めようとの努力が進むのか。選手の育成では、より多様な能力を重視するのか。
そんな期待が生まれるほど、大谷選手による固定観念の打破は衝撃が大きい。