自民、公明両党は企業の賃上げを促進する法人税の優遇拡充を柱とする2022年度の与党税制改正大綱を決定した。賃上げや教育訓練を条件に、賃金を増やした分を法人税額から差し引く控除率を大企業で最大30%、中小企業で同40%とした。これまでの控除率を大幅に拡大した。所得税などを軽減する住宅ローン減税の適用期間の延長なども盛り込んだ。

 「新しい資本主義」との理念を掲げ、経済政策に新風を吹き込もうとする岸田文雄首相の初の税制改正は、経済的苦境にある者に富を移転する「分配」に挑んだ。しかし、どこまで実効性が期待できるかは見通せない。

 分配というのなら、株式や債券で資産運用する富裕層の金融所得や、内部留保をため込んだ大企業に対する課税を強化し、これを財源に中間層のてこ入れに充てるのが王道だろう。ところが今回はそうした手法を避け、税負担軽減などによって企業を給与増に誘導する「賃上げ税制」の拡大を採用した。

 30%、40%という控除率は確かに大きいが、賃金水準は税制だけで決まるものではない。設備投資計画や業績見通し、労使関係などを踏まえ、総合的に判断する企業経営の要諦とされる。

 研究開発などの費用を法人税から差し引く投資減税では、一定の賃上げや設備投資を適用の条件とし、基準に達しない場合は減税を停止する「罰則」も盛り込んだ。しかし、投資減税のハードル引き上げは、賃上げの原資をもたらす持続的な成長に逆行する可能性もあるのではないか。

 富を再分配して社会的公正、公平を期すことは税制の基本的な役割だ。それをどう機能させるかは、経済運営の基となる思想によって異なる。

 首相は新自由主義の弊害を指摘し、「成長と分配の好循環」という考え方を打ち出した。企業の富が賃上げを通じて中低所得層にしたたり落ちてくる「トリクルダウン」ではなく、政府の介入をより強める方向性に大きく転換したといえる。

 こうした文脈の中で、金融所得課税の強化はなぜ見送られたのか。株価の下落を避けたいということなら、あまりにも目先のことにとらわれていると言わざるを得ない。分配に向かう姿勢にも疑問がわく。

 脱炭素社会に向け、重要な課題になっている「炭素税」も具体的な検討を見送った。二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて課税し削減を促す「カーボンプライシング」の一環だが、企業の負担増を避けたい経済産業省が慎重だった。

 日本の気候変動への取り組みでは、石炭火力発電を存続させる政策を市民団体などが強く批判している。炭素税への取り組みも迅速さを欠いたことで、政府の本気度に疑問符が付きかねない。23年度改正では確実に具体化しなければならない。

 22年に本土復帰50年の節目を迎える沖縄に関係する大きな税制改正があったことを指摘しておきたい。地元の酒造業保護のために続けてきた泡盛やビールの軽減税率を段階的に縮小し、最終的には廃止する方針が決まったのだ。地元にとっては「苦渋の決断」だったという。

 だが、沖縄にとって酒造業は重要な地場産業だ。今後は泡盛のブランド力向上や海外市場開拓などで新たな支援策を求めたい。