岸田文雄首相の所信表明演説に対する代表質問が衆参両院の本会議で始まり、衆院では対決路線から政策立案型への転換を表明して就任した立憲民主党の泉健太代表が初論戦に挑んだ。
だが新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」拡大による「第6波」回避のため、政府が打ち出す水際対策強化、ワクチン3回目接種の前倒し、生活困窮者支援などはどこまで有効なのか。国民に十分明らかになったとは言いがたい。
泉氏は、コロナ対策の裏付けとなる2021年度補正予算編成を6月に提案した経緯を挙げ「政府与党は耳を貸すことなく第5波が起きた」と指摘。衆院選日程を優先して今国会への提出となったのを「総理は遅すぎた救助隊だ」と批判した。
過去最大の財政支出55兆7千億円の経済対策取りまとめ、オミクロン株対応で全世界を対象とする外国人の入国禁止と、「スピード感」を強調してきた首相の機先を制した形だ。幸い今はコロナ感染が小康状態だが、半年近い補正予算編成先延ばしは経済活動の傷口を広げたかもしれない。首相は批判を重く受け止める必要がある。
ワクチンの3回目接種は現状では2回目から8カ月以上空けるのが原則だが、首相は「できるだけ前倒しする」と表明。ただ具体策については「早期に既存ワクチンのオミクロン株への効果を見極めた上で、優先度に応じ前倒しの範囲、方法を示す」と述べるにとどめた。海外では既に6カ月以上とした国が多い。検討にもっと「スピード感」が必要ではないか。
18歳以下の子どもを対象とした計10万円相当の現金、クーポンの給付はコロナ経済対策の柱だ。ただ、現金とクーポンに分けると現金一括より事務経費が約900億円高くなるため、泉氏は「その分を生活困窮者向け給付に上乗せすべきだ」と主張。これについても首相答弁は「どのような場合に現金給付できるか、自治体の意見を聞いて具体的な方法を検討する」とあいまいだった。
コロナで苦しむ人々への生活支援か、あるいは消費喚起による経済対策なのか。政府のどっちつかずの政策が大きな財政支出となって国民にツケが回るのは座視できない。政府は自治体と協力し、無駄をなくす努力を尽くしてほしい。
一方、10月31日の衆院選で初当選した新人に在職1日で100万円支払われることが判明して問題化した「文書通信交通滞在費」については、泉氏が日割り支給への変更や使途公開を可能にする法改正を要求。首相は「各党がしっかりと議論し、合意を得る努力を重ねる必要がある」と他人ごとのようだった。
領収書を添えて必要経費を精算するのは一般社会の常識だ。使途公開をためらう自民、公明両党は到底国民の理解を得られない。与党を説得して全会派一致の法改正を実現させるのは首相の役割ではないか。直ちにリーダーシップを発揮してほしい。
「新しい資本主義」の一環で、首相は「若者世代・子育て家庭の所得大幅引き上げ」を表明したが、具体策として挙げたのは女性が就労しやすくなる環境整備程度だった。
首相はコロナ対策で「屋根を修理するなら日が照っているうちに」と言った。少子高齢化によって、日本はもう土台から揺らいでいることも忘れないでほしい。