地域の神社に飾るしめ縄作りの継承が難しくなってきた。神社によって編み方や長さ、形が異なり、氏子が製作を担うが、そもそも自宅用に作る習慣が廃れ、しめ縄の作り方を知る人が少なくなった上、稲作の機械化で材料のわらが手に入りにくくなったからだ。製作をシルバー人材センターに頼む例や製作をやめた例も出ている。
松江市の米所・持田地区にある加佐奈子(かさなし)神社(松江市東持田町)の氏子、小笹博文さん(70)は「これまでで一番できが悪いと言われた」と、しめ縄を見やり苦笑いする。
かつては自治会の8組が持ち回りで製作を担ってきたが、2020年から市シルバー人材センターに頼むようになった。作り方を細かく口出しする長老格の住民が次々と引退し、いなくなっていたからだ。「きちっと教わったことがなく、数年ぶりに回ってくる時には忘れている。もうきれいに作ることはできない」と嘆く。
出雲大社の神楽殿に奉納するしめ縄を手掛ける大しめなわ創作館(島根県飯南町花栗)によると、松江に限った話ではない。全国の神社から注文が入り、ここ2~3年は翌年の予約もいっぱい。「技術者がいない」「稲わらが手に入らない」との理由が多いという。
荒神社(松江市秋鹿町)では、長さ10メートル近くあり、竜を模したしめ縄2本の製作をやめ、竜の石像で替えることにして20年夏に石像2体を建てた。
独特のしめ縄作りは一日掛かりの作業で担い手不足も相まって「だんだん大変になってきた」「わらの調達が難しい」との声が目立っていたという。4、5年前から議論し、約80軒が協力して石像建立に至った。
近くの樋原正光さん(74)は「ここは子どもの頃、野球をして遊んだ懐かしい、楽しい場所。せっかくなら何か残したい。石像があれば手間をかけることもないし、心配もなくなった」と安心する。
松江市シルバー人材センターには家庭用のしめ縄のほか、神社用の注文が年々微増しており、21年は25件に上る。鳥居や社に合わせた長さや編み方など、神社ごとに違う「こだわり」を再現するため、注文書には写真や図がつく。しめ飾り班の世話役、角田祐吉さん(74)は「なるべく希望通りに、市販していないものを作っている」といい、編む手に力が入る。
せっせと手を動かすセンターのメンバーでも、作った経験がない人がほとんどだった。角田さんは編み方指導をしたり、編む方向や太さなどをまとめた図面を作って、記録に残し始めている。「本当はどんな形状でも、氏子で作ったほうがいい。(しめ縄作りは)コミュニケーションを取る大切な場でもある」と語る。
(森みずき)