神社境内に設置された「しめ飾り収集場所」。住民の心苦しさを軽減する珍しい取り組み=松江市天神町、白潟天満宮
神社境内に設置された「しめ飾り収集場所」。住民の心苦しさを軽減する珍しい取り組み=松江市天神町、白潟天満宮

 正月のしめ飾りを家庭ごみとは別に受け入れる松江市独自の「特別収集」がほそぼそと続く。今回も市内18カ所に専用の収集箱を置き、7日まで受け入れた。しめ飾りなどを焼く地域の正月行事「とんど焼き」が廃れる中、「ごみと一緒に捨てるのは忍びない」という市民の声に応える。民俗学の専門家らは今後も続くよう願う。 (多賀芳文)

 6日夕、川津公民館(松江市西川津町)の敷地に設けられた「しめ飾り収集場所」に、近くの無職男性(73)がしめ縄を片手に姿を見せた。毎年持ち込むといい「正月飾りを大切に扱う祖父の背中を見てきた。ごみとして出せばバチが当たる気がするから」と市の計らいに感謝した。

 市リサイクル都市推進課によると、正月飾りの特別回収の開始時期は不明。少なくとも2005年の合併前の旧松江市時代から続くという。とんど焼きが廃れるにつれ、山陰両県でも可燃ごみとして出す住民が増える中、自治体のサービスとしては珍しい事例だ。

 21年度は神社や公民館、バス停など市内18カ所に設置し、21年12月27日から22年1月7日朝まで受け入れた。集まったしめ飾りは最終的には可燃ごみ処理場で焼却されるが、可燃ごみとして出すより、市民の心理的な抵抗は薄まる。

 ただ、時代の流れで、そもそもしめ飾りを自宅や車に付ける市民が減る中、収集の効率だけ考えれば手間のかかる特別収集の維持は市にとって悩みの種。かつて公民館単位で市内各地に収集箱を置いたのと比べれば事業は縮小傾向にある。

 馬に模したキュウリや牛に見立てたナスといった「盆飾り」の回収が14年度で廃止されており、しめ飾りの特別収集が今後も続くかは見通せない。市リサイクル都市推進課の担当者は「忍びないという市民のお気持ちは分かるが、宗教行事にどれだけの人員や予算を投じられるかという問題もある」と説明する。

 島根県立大民俗学研究室の中野洋平准教授は、市の取り組みについて「かつて共同体が担っていた習俗や機能の代替措置として機能している」と指摘。特別収集場所の一つ、白潟天満宮(松江市天神町)の長谷川正矩宮司(83)も、しめ飾りを丁重に扱いたい日本人の心をすくい取る役割があるとして「取り組みを続けてほしい」と話す。