安定的な皇位継承などを議論する政府の有識者会議は最終報告書を取りまとめた。皇族数を確保する方策として「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する」「皇族の養子縁組を可能にし、皇統に属する男系男子が皇族になる」という2案を柱に据えた。だが皇位継承策については、将来判断すべき事柄として、具体案を提示しなかった。
上皇さまの天皇退位を実現させた特例法の付帯決議で国会は、2019年4月の法施行後に皇位継承策を速やかに検討して報告するよう政府に求めたが、今年3月にようやく設置された有識者会議は継承策として有力視される女性・女系天皇を容認するかどうかの検討を早々と切り上げた。
男系男子による皇位継承を定める皇室典範を重んじる自民党保守派の反発を招き、国論を二分する論争になりかねないと懸念したからだ。皇族数減少への対応が喫緊の課題であることに異論はないが、次世代の皇位継承資格者が秋篠宮家の長男悠仁さまのみという現実を脇に置いて議論を先送りしたことで象徴天皇制の安定はまた遠のく。
悠仁さまの即位は見通せるとしても、さらに結婚や男子出生といった皇統の維持に欠かせない全てを一身に背負ってもらおうというのは綱渡りに近く、危うさを拭い切れない。報告書を受けての議論で、今後、継承策の検討を前に進めることに本腰を入れるべきだ。
秋篠宮家の長女眞子さんが小室圭さんと結婚したことにより、皇室の構成は天皇、皇后両陛下と上皇ご夫妻を含めて17人。このうち皇位を継承する資格があるのは皇嗣(こうし)の秋篠宮さま、秋篠宮さまの長男悠仁さま、上皇さまの弟常陸宮さまの男性皇族3人だけだ。女性皇族は12人で、未婚は両陛下の長女愛子さまをはじめ5人となっている。
女性皇族の結婚が相次ぐことになれば、悠仁さまと同世代の皇族がいなくなり、公務に差し障りが出る可能性がある。このため皇族数の確保を急がなければならないのは間違いない。19年の天皇退位に伴い、当時の皇太子さまの公務を引き受けることになった秋篠宮さまは17年11月の誕生日会見で「私が今しているものを譲る先がない」と不安を口にされていた。
有識者会議は2案を提案し、皇族数確保が難しい場合、皇統に属する男系男子を法律で直接皇族にする案も付記した。
いずれにせよ、女性皇族と、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子の子孫は自身の人生に大きな影響を受けることになる。旧宮家子孫の中に皇族になる意思を持つ人がいるかという問題もあり、制度設計は丁寧に進めることが求められる。
ただ皇族数確保にめどが付いたとしても、それだけでは皇室の安定につながらない。皇位継承策が必須だが、小泉政権が05年に女性・女系天皇を容認する報告書を出して以来、容認派と旧宮家子孫の皇籍復帰を唱える保守派との議論は平行線をたどったままだ。それでも最近、母方の血筋が天皇につながる女系天皇には反対だが、女性天皇は容認するという発言が保守派内から出ている。
次世代の皇位継承資格者がいる中で大きな制度変更には十分慎重でなければならないという見方もあるが、国家の根幹に関わることであり、どのような事態になっても対処できるよう議論を尽くしておく必要がある。