タオルで室内の熱気や蒸気を循環させる、熱波師の五塔熱子(ごとうねつこ)さん=鳥取県琴浦町野井倉、ネイチャーサウナ
タオルで室内の熱気や蒸気を循環させる、熱波師の五塔熱子(ごとうねつこ)さん=鳥取県琴浦町野井倉、ネイチャーサウナ

 全国で愛好者が増えているサウナ。サウナ入浴後のすっきりした状態を表す「ととのう」という言葉を耳にし、SNSでサウナに関する投稿を見掛ける。中高年男性を中心に楽しまれていたサウナが若者や女性にも親しまれている。多くの人を虜にするサウナの魅力は何なのか。「五塔熱子(ごとうねつこ)」の名前で、サウナ内でタオルを振る熱波師として活動する鳥取県琴浦町の地域おこし協力隊、石黒明日香さん(35)に話を聞いた。(Sデジ編集部・宍道香穂)

 

 神奈川県川崎市出身の五塔さんは今年5月、琴浦町に移住した。役場で勤務しながら、一向平(いっこうがなる)キャンプ場(鳥取県琴浦町野井倉)内にあるフィンランド式サウナ「ネイチャーサウナ」で熱波師(アウフギーサー)として活動する。

 アウフギーサーとは、ドイツ語で「注ぎ入れる」の語源を持つ「アウフグース」という言葉が元。焼き石に水を掛けて発生させた蒸気をタオルで仰ぎ、サウナ室内の湿度や温度を循環させて均一にする人を指す。

 焼き石に水をかけ、天井を伝って降りてくる蒸気を浴びる入浴法「ロウリュ」に動きを加え、利用客の体温上昇をサポートする。タオルをぐるぐると回しながら上下左右に動かすダイナミックなパフォーマンスが愛好家の身も心も熱くする。

熱波師「五塔熱子(ごとうねつこ)」として活動している琴浦町地域おこし協力隊の石黒明日香さん

▷「緊張→リラックス」がポイント
 五塔さんによると、サウナを楽しむ基本的なプロセスは①サウナで体を温める ②水風呂で体の熱をとる ③外気浴(屋外の空気に当たりながら体を休ませる)―の三つ。「冬は冷たい外気で十分に体を冷やすことができるため、水風呂なしで外気浴をして、屋内で休憩するのがお薦め」と、これからの季節の入浴法をアドバイスしてくれた。

 「ととのう」とは、サウナ、水風呂、外気浴、と一連の流れを繰り返すことによって得られる快感を指す。ポイントは温度の変化によって体にストレスをかけること。サウナの熱で体に緊張状態を作った後、水風呂で熱を解放し、椅子に座ったり床で横になったりと、リラックスした状態を作ることで、心身ともに「ととのう」感覚が訪れるという。五塔さんは「お化け屋敷でハラハラドキドキした後、外に出てホッとする感覚に似ているかもしれません」と説明した。

 外気浴や休憩のやり方は人によってさまざまで、リクライニング型の椅子を使う人もいれば、屋外のウッドデッキや芝生に大の字で寝転がる人もいる。五塔さんは「地球とつながっている感じの人が多いです」と笑う。外気浴の際に自然を感じるのもサウナの魅力の一つとのこと。頭を空っぽにして、心地良い風やきれいな空、周囲に広がる景色と一体になれば、ストレスも吹き飛びそうだ。

ネイチャーサウナの休憩スペース。体重を預けると背もたれが倒れるリクライニング式の椅子で、ゆったりとくつろげる。

 サウナによるリフレッシュは日頃、慌ただしく過ごしている人にぴったり。やるべきことに追われ、仕事後も休日も「あれをしなきゃ」「これもあった」と、常に何かを考えている人は、サウナ室で熱に包まれていると、強制的に思考が止まるという。五塔さんは「根本的な解決にはならないかもしれませんが、一時的に考えをリセットすることができます。用具を準備する必要もなく、手軽に楽しめるため、お薦めのリフレッシュ方法です」と話す。「ストレスを抱えてしまった時、気分転換の方法をたくさん知っていると良いと思うのです。サウナも選択肢の一つとして考えてもらえたら」

 「何も考えない時間」を作ることで、心身ともにリフレッシュする。瞑想に似た感覚かもしれない。常に様々な情報が入ってきて、せわしなさ、わずらわしさを感じている人が多い現代、サウナの人気が高まっているのもうなずける。

▷体の深部までじっくりと温めるには
 サウナや水風呂に入る時間は特に決まっていない。体が十分に温まり熱くなったらサウナを出て、水風呂に入り、体の粗熱が取れたと感じたら出る。熱の感じ方には個人差があるため、様子を見ながら、無理のない範囲で楽しみたい。

 記者はサウナは楽しめるものの、水風呂の冷たさが我慢できず、全身漬かりきったことがない。「体が温まりきっていないのでしょうか」と聞くと、五塔さんは「可能性はあります」。水風呂は体の熱をとることが目的のため、「水を体にかけるだけ、足をつけるだけといった使い方でも問題ないです。気温が低い季節は、外の空気に当たるだけでも十分です」とし、サウナで全身をじっくり温めるポイントを教えてくれた。

アロマオイルが入った水(手前)を焼き石(奥)にかけ、蒸気を発生させる。

 カギになるのはサウナ室の温度と湿度。温度が60~80度で、蒸気により湿度を高くすることができる「フィンランド式サウナ」は、温度が約100度、湿度が10%以下といった高温・乾燥状態のサウナと比べ、体をじっくりと温めるのに適しているという。湿度が高いため、皮膚や目が痛くなったり呼吸が苦しくなったりしにくいのも特徴。ゆっくりと深部体温を上げ、さらにロウリュやアウフグースで蒸気を浴びると、しっかりと体を温めることができる。

▷いざ「ととのう」を体験
 五塔さんは「“ととのう”感覚は言語化するのが難しく、説明するよりも実際に体験するのが一番です」と話す。確かに、サウナ愛好者からよく耳にする「ふわふわと宙に浮いた感じ」「究極の快感」といった表現は、なんとなく分かるようで、いまひとつピンと来ない。
 「言葉にできない心地よさや癒しを実際に体験できることや、その快感をサウナ仲間と共有できることが、サウナの魅力です」との言葉に背中を押され、実際に体験してみようと、サウナ室に向かった。

 取材当日、外は吹雪で真っ白、凍えるような寒さだった。「サウナ日和ですね」という五塔さんの言葉を信じ、サウナ室へ入った。
 芯から冷えた体に、サウナ室内の熱気がじんわりとしみる。心身ともにほぐれていく感じがする。
 五塔さんがタオルを持って登場し、室内の焼き石に水を掛けた。ジュ―っという音と共に蒸気が立ち上り、さわやかな香りがふわりと広がった。レモンローズのアロマオイルを水に混ぜているとのこと。
 いよいよアウフグースが始まる。スピーカーから流れる音楽に合わせ、五塔さんがタオルを動かし始めた。ダイナミックに動くタオルに合わせて時折感じる熱風に、気分が高まる。
 途中、もう熱い、出たいかも…と思ったものの、じっと座り、一通り熱波を浴びることができた。空気が乾燥し過ぎていないおかげで、息苦しさを感じることはなかった。

 

 「このまま外に出ます」と言われ、吹雪の中、外へ出て驚いた。「寒くない!」。むしろ、体にこもった熱がじわーっと放出される感じが心地良い。
 屋内に戻って、案内された椅子に座る。持久走の後のような、ふわふわとした心地良さ、達成感を感じた。

 再びサウナ、外気浴、休憩と繰り返す。椅子の上で目を閉じ、深呼吸をすると、地面にゆっくり沈んでいくような不思議な心地良さを感じた。このままここでのんびりと休みたい…と思ったが、残してきた仕事もある。会社に戻らなければと、サウナを後にした。次はもっとゆっくり楽しみ、心身ともにリセットしたい。

▷豊かな自然とサウナは相性ぴったり

 五塔さんはもともと温浴施設内のリラクセーションブースでセラピストとして勤務していた。施設の「熱波イベント」にスタッフとして参加しないかと声を掛けられ、見よう見まねで熱波師の仕事を始めた。仕事を続けるうち、熱波イベントに力を入れる全国各地の温浴施設との交流が生まれ、2016年に訪れた秋山温泉(山梨県上野原市)で、本格的なアウフグースを目にした。初めて目にするアクロバティックな動きに圧倒され、本場ドイツでアウフグースを受けるなど、サウナの世界にのめり込んだ。

タオルで熱波を送る五塔さん

 琴浦町に移住してから約半年後の11月、五塔さんは鳥取県から「CEA(最高経営アウフギーサー)」に任命された。関東地方と比べサウナ文化が広まり切っていない中四国地方で、魅力を知ってもらおうと活動に力を入れている。

 五塔さんは琴浦町役場の職員として勤務しながら、鳥取県の「CEA」としてホームページ「ととのうとっとり」を立ち上げるなど、サウナの魅力発信に奮闘する。「サウナの魅力の一つは、外気浴の際にその土地の自然を肌で感じられること。鳥取の雄大な自然はサウナと相性ぴったり」と話し、ミネラル豊富な大山の伏流水や美しい森林、鳥取砂丘といった豊かな自然とサウナをセットで楽しむ「サウナツーリズム」の盛り上げを目指す。

 島根県とのコラボの可能性を聞くと「めちゃくちゃ考えています!」と力強く答えた。サウナと豊かな自然との組み合わせは、山陰の新しい魅力になると感じた。全国から山陰にサウナファンが訪れ、「ととのう」体験を通じてリフレッシュする未来が楽しみだ。