椎名浩昭 島根大医学部付属病院院長
椎名浩昭 島根大医学部付属病院院長
山口修平 島根県病院事業管理者
山口修平 島根県病院事業管理者
丸山達也 島根県知事
丸山達也 島根県知事
椎名浩昭 島根大医学部付属病院院長
山口修平 島根県病院事業管理者
丸山達也 島根県知事

 新型コロナウイルスの感染拡大に直面し、山陰両県で病床、医師、看護師などの医療資源、人材の確保や一般診療との両立など、地域医療の在り方があらためて問われている。こうした中、出雲市に立地する三次医療機関の島根県立中央病院(出雲市姫原4丁目)と島根大医学部付属病院(同市塩冶町)の連携、役割分担は急務だ。コロナ時代の地域医療をリードする両病院のトップと、県内のコロナ対策の総責任者である島根県知事に、今後の展望を聞いた。 (聞き手は編集局ニュースセンター長兼報道部長・万代剛) 

 

人材育てる体制で連携 島根県知事 丸山達也氏

山間部、へき地へ医療提供 島根大医学部付属病院長 椎名浩昭氏

分野ごと機能分担進める 島根県病院事業管理者 山口修平氏

 

■2020年春から続く島根県のコロナ対策を振り返ってほしい。

 丸山知事 県内の累積感染者は1733人(2021年12月9日現在)で、人口10万人当たりの感染者数は258人と全国的に非常に低い水準に抑えられた。

 県民の真面目な行動抑制や、濃厚接触者かどうかに関係なく幅広く対応したPCR検査、県内の医療機関が積極的にコロナ患者を受け入れた結果だ。市町村を中心にワクチン接種も進めていただき、21年10月以降の感染抑制に大きく貢献した。

 椎名病院長 国内でも新たに確認された変異株「オミクロン株」は、いま一つ得体が知れないが、これまでと取り立てて対策が変わることはない。島根大病院では、院内にウイルスを持ち込まないという体制の下で、「トリアージ検査センター」で水際チェックを行うなど従来の対策を徹底するとともに、3回目のワクチン接種の妥当性も広く周知する。

 

■医療人材や資源が限られる島根県では、医療従事 者が持てる力を発揮するための連携が重要となる。

 山口病院事業管理者 20年春に初めて県内で感染者が出た際、すぐに災害派遣医療チーム(DMAT)責任者の医師(県立中央病院副院長)を、県の「広域入院調整本部」に派遣し、入院調整を図った。

 椎名病院長 新型コロナを「災害」として捉えた点は大きかった。DMAT責任者、広域入院調整本部の副本部長(島根県健康福祉部医療統括監)と私の3人が島根大医学部(当時は島根医科大)の同期生だ。卒業生は地域医療に貢献するという大目的があり、統一感を持って対応できた。

 丸山知事 21年11月末に第5波までの経験を踏まえた医療提供体制の確保計画を策定した。療養者は最大で計450人と想定し、従来324床だった病床数を360床とした。

 病床を使い切った後に宿泊療養や自宅療養に切り替えると、病院間の転院調整ができなくなる。自宅療養の備えが十分ではなかった反省を生かし、訪問看護ステーションの看護師による健康観察や、診療所の医師の診察と相談対応ができる体制を拡充した。

 さらに、松江市内の宿泊療養施設では中和抗体薬の投与を行えるよう医療機関と協力して進めている。宿泊施設や自宅で療養してもらうためには、勤務医、開業医、看護師、薬剤師など全ての医療スタッフの協力が必要不可欠だ。

 

■都会地では、自宅で十分なケアがなく症状が悪化する例があり、不安を感じる県民は少なくない。

 丸山知事 第5波で自宅療養が始まった時、県民には冷静に県側の説明を受け止めていただいた。今後も冷静に対応してもらえるよう、きちんと情報提供したい。

 椎名病院長 知事と全く同感で、うわさなどに基づく不確実な情報をなくすことが大事だ。正確でない情報があると対応が遅れる。

 

■第6波に備えつつ、一般医療との両立が課題となる。

 山口病院事業管理者 どちらも充実した設備や人材を有するが、今、医師の働き方改革が極めて重要な課題になっている。連携なしでは、課題のクリアは難しい。

 21年に未熟児など危険度が高い出産に対応する「総合周産期」の機能を、島根大病院に完全移行した。県立中央病院は通常出産に加え、院内助産や産後ケアの役割を担う。整形や小児分野でも既に役割分担をしている。働き方改革を視野に入れ、連携や機能分担を進めるのが今後の方向性だと考えている。

 椎名病院長 既に連携が始まっている診療科から機能分担の重要性を広め、機運を醸成することが大切だ。このことが、働き方改革へもつながっていく。また、ロボット支援手術やTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)などの特殊機器を要する手術は当院でしか行っていないので、責任を持って実施していく。

 

■両病院には医療人の育成、県内への医師派遣という大きな使命がある。

 丸山知事 島根大病院が県内病院の勤務医の3分の1を派遣し、地域医療を支えていただいていることに、まずもって感謝申し上げる。中山間地域などでは、開業医の高齢化や後継者不足で、診療所が閉じてしまうケースがあり、(医師派遣された)病院でカバーする取り組みが始まっている。引き続き、地域に必要な医師を派遣してほしい。

 県としても、県立中央病院と協力して、総合診療医育成の取り組みを始めたところであり、奨学金・地域枠制度や、勤務環境改善の取り組み支援なども合わせ、関係者と共に県内で活躍する医師が増えるよう、尽力する。

 同時に、大学は研究機関であり、県外でないと受けられなかった新しい領域の手術や治療法を先駆けて導入し、県内の病院に広げてほしい。高度医療の提供と研究機関としての魅力を高めてもらうことが医師確保につながる。

 山口病院事業管理者 県立中央病院は救急医と総合診療医の育成に力を入れている。急性期の治療後、慢性期の医療、さらに在宅医療や地域包括ケアをいかに推進するかが大事だ。

 椎名病院長 地域や診療科の偏在を分析した上で、医療資源の集約化と同時に診療科として弱い体制の地域をサポートできる人材育成を進めたい。20年に総合診療医を育成するセンターを設けた。県立中央病院と協力しながら総合診療医の育成を進め、山間部やへき地の医療提供体制を整えたい。

 丸山知事 県内の医療人材は決して豊富ではない。ただ、コロナ禍でその弱さが出たわけではなく、自分の持ち場でできることに懸命に対応していただき、感謝している。

 医療は立派な建物やベッドがあっても意味がなく、結局は人が支えていると痛感した。いかに医療人材を育て、若い人に「島根で地域医療をやろう」と思ってもらえるかが重要だ。そうした体制ややりがいを作る意味で3者の立場は共通だ。県民や医療従事者の期待に応えられるよう、手を携えて取り組んでいく。