遊漁者に対し、密漁への注意を呼び掛ける看板=松江市内
遊漁者に対し、密漁への注意を呼び掛ける看板=松江市内
遊漁者に対し、密漁への注意を呼び掛ける看板=松江市内

 島根県内の沿岸で海上保安庁が取り締まったサザエやアワビなどの密漁者に対し、共同漁業権を持つ漁業協同組合JFしまねが被害者として告訴しなかったため、少なくとも2017年から21年までの5年間で1件も罪に問えていないことが関係者への取材で分かった。数百個のサザエを密漁する悪質な例もあったといい、地元の漁業者らは危機感を強めている。 (古瀬弘治)

 共同漁業権の対象に指定されたサザエ、アワビなどを漁業者ではない人が密漁した場合は漁業法違反(漁業権侵害)に当たり、100万円以下の罰金が科せられる。罪に問うためには、被害者の告訴が必要と同法に定められている。

 島根県沿岸で密漁を取り締まる境、浜田両海保によると、17年から21年の5年間に漁業権侵害で85件、103人を取り締まったが被害者のJFしまねから告訴がない。多くは、取り締まりから6カ月の申告期限を過ぎており、検察が公訴できる可能性がなくなっている。

 境海上保安部の井端立夫次長は「親告罪なのでコメントする立場にない」とする。ただ、山陰中央新報社が関係者から入手した資料によると、境、浜田両海保は19年、JFしまねに対し16年から18年までの取り締まり事案の一覧を示し、告訴を含めた対処を促す趣旨の文書を出した。しかしJFしまねの対応は変わっていない。

 「サザエ1個」などの軽微な例もある一方、17年に大田市内でサザエ600個余りを採った悪質とみられるケースもあった。被害に遭っている松江市内の漁業者は「罰則を受けないならまたやろうという人が出てくる。組合に言っているのに、対応してくれない」と話す。

 全国の密漁の実態について調査している上智大法学部の北村喜宣教授(行政法)は、告訴するかどうかは組合の判断が大きいとしつつ、資源管理の重要性が言われる近年「全て告訴しないというのは全国的にも珍しい」と指摘する。JFしまねの岸宏会長は取材に対し、コメントしなかった。

 共同漁業権を付与している島根県の染川洋水産課長は「水産資源に影響のある事案については、漁場の管理者としてしっかりと対応してほしい」としている。