戦国武将・伊達政宗(1567~1636年)が飼い猫を溺愛する様子を記した書状が、出雲市大社町、島根県立古代出雲歴史博物館のミニ企画展で初めて展示された。伊達政宗は豊臣秀吉や徳川家康が恐れた勇壮な武将。猫好きだったとは驚きで、会員制交流サイト(SNS)でも大きな注目を集めた。興味が沸き、岡宏三専門学芸員(55)に話を聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
伊達政宗は東北地方の戦国大名。徳川家康と豊臣方の石田三成が争った関ケ原の戦いで、徳川軍に付いて勝利し、仙台藩(62万石)の初代藩主になった。幼年期に天然痘で右目を失明しながら、戦場で無類の勝負強さを見せ「独眼竜」の名で知られる。

▼お礼の手紙で飼い猫をべた褒め
公開された書状は縦34・2センチ、横50・7センチ。政宗本人が江戸幕府の伝達役、野々村四郎右衛門に宛てたもの。岡学芸員によると、政宗は参勤交代で江戸にある屋敷にたびたび滞在したため、2人は見知った仲だったと思われるという。内容は現代語に訳すと、以下のようになる。

「猫の子をしっかりと預かりました。男ぶり(顔つき)が見事です。家来から『夜、(猫が)自身の体よりも大きいネズミを見事につかまえた』と聞きました。ますます大事に飼おうと思います。喉輪(首輪)もおしゃれで、一段と華やかに見えます。直接会ってお礼がしたいです」
書状の前後の流れは不明だが、政宗が四郎右衛門から猫を譲り受け、そのお礼の手紙とみられる。猫について「顔つきがりりしい」「大きなネズミが捕れるほど強く賢い」「首輪が似合う」と、べた褒めだ。独眼竜の名からは想像できない猫ラブな一面に、親しみを感じた。

岡学芸員は後段の「直接会ってお礼がしたい」という表現について「最大限の感謝の意だ」と解説する。当時、幕府などと連絡をとる際、大名が直接、言葉を交わすことはめったになく、通常は伝達役の家来を行かせるものだという。有力大名の政宗が、猫に関する話でこれほどまでに感謝する人だったとは驚きだ。
▼書状初公開、意外な一面に反応続々
書状は島根県立古代出雲歴史博物館が所蔵する。歴史的に大きな価値がある資料ではないと見られていた。政宗に縁のある仙台市史に収録された以外、これまで一度も展示、公開されなかった。今年の干支(えと)が寅(とら)だったことから、虎=ネコ科のつながりで猫に関する企画展を考案し、初めて展示することになった。
企画展の記事が1月13日の夜、山陰中央新報デジタルのホームページで公開されると、ツイッターでフォロワー約20万人をもつ「石田三成」を名乗るアカウントが記事を引用。「これめちゃくちゃ行きたい」とつぶやき、740リツイート、2205いいね(2月2日時点)を集めた。政宗に扮(ふん)した仙台市のご当地キャラクター「ねこまさむね」の、フォロワー4万4千人の公式アカウントも「子猫をもらった伊達政宗公が大事に飼うと誓うお礼の手紙が初めて公開されているそうです」と反応し、1万1000リツイート、3万1000いいねが集まった(同)。

ほかにも記事を見たと思われる人から「ネコチャンかわいがってたんだなぁ」「ネズミ仕留めて大喜びってかわいい」「独眼竜を手なづける猫、最強説」と関心を寄せるつぶやきが多く見られた。
書状に年月日の記載はない。岡学芸員によると、時期によって形が変わる、花押(かおう)と呼ばれる署名の形から推測し、政宗が50歳を過ぎ、大坂の陣(1614~1615年)も終わった1620~21年頃のものと推測できるという。岡学芸員は「戦乱が終わった後なので、政宗も平凡な暮らしをしていたのかもしれない。よくこんな資料が残っていたものだ、と思う」と笑った。
▼政宗の書状、なぜ島根に?
岡学芸員によると、政宗は筆まめで有名で、書状は全国に約2千点残るが、猫に関するものは唯一だという。ところで、仙台藩を治めた武将・政宗の貴重な書状が、なぜ島根県で所蔵されていたのだろうか。

岡学芸員によると、書状は松江藩出身で、美術品や古文書収集家の桑原羊次郎(1868~1955年)が所有していたもの。桑原没後の昭和40年(1965年)代、島根県が遺品を譲り受けた際、書状も混じっており、そのまま長年保管されたそうだ。
桑原家は代々、松江藩の両替商を務めた豪商。藩士が参勤交代で江戸に行った際、桑原家への土産として錦絵を買って帰ることが多く、昔から美術品が集まる家だった。桑原羊次郎は特に古文書の研究に熱心だったため、国内各所の資料を収集したという。
詳しい流れは不明だが、仙台市周辺から書状を入手する機会があったのだろう。桑原は文化人としての功績が認められ、県文化功労者、松江市名誉市民にもなった。
書状を通して、戦国武将として名をはせた人物も、今の人々と同じように動物をかわいがっていたことが分かった。岡学芸員は「普段展示する政治的な資料とは違い、歴史上の人物の人間くさい側面が見られる。コロナ禍で大変な時期だからこそ、くすっと笑ってほしい」と話した。
博物館は現在、島根県に適用されたまん延防止等重点措置により休館し、企画展も中断された。20日に解除された場合、企画展の開催期間を21日から3月14日までとして、再び書状を展示する予定だという。入館料は一般620円、大学生410円、小中高生200円。会期中は無休。