西尾尚美先生(左)からホワイトチョコチーズテリーヌの作り方を教わる記者
西尾尚美先生(左)からホワイトチョコチーズテリーヌの作り方を教わる記者

 3月14日はホワイトデー。バレンタインデーに女性からチョコレートをもらった男性がお返しをする日。定番はクッキーやチョコと聞くが、何か心を込めたプレゼントを贈りたい。料理に不慣れな独身記者(31)がパティシエの指導でお返しを作ってみた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 指導をお願いしたのは、山陰中央新報文化センター(松江市殿町)でお菓子教室を担当する、パティシエの西尾尚美先生。ホワイトデーにお薦めの菓子を尋ねると「チーズケーキのような見た目の『ホワイトチョコチーズテリーヌ』がぴったり。甘過ぎず、女性の人気が高い」との答えが返ってきた。手順は簡単で、短い調理時間で作れるという。

西尾尚美先生。パティシエの資格のほか、野菜ソムリエや紅茶コーディネーターの資格も持つ

 記者は料理をほとんどしたことがない。最後に包丁を握ったのは中学校の家庭科の授業だった。学生の頃や社会人になってから転勤し、1人暮らしを数年間したが、炊事と呼べるのはコメを炊く程度で、ほとんどは大学の食堂や外食で済ませてきた。今回のテリーヌ作りは料理経験が乏しく不器用な記者でも可能なのか、不安になる。

 西尾先生は「簡単なので絶対に大丈夫。失敗しようがない」と優しくほほ笑んだ。「初心者向けの料理で尻込みしてはいられない」と自分を奮い立たせ、調理室に足を踏み入れた。

 

 スーパーで手に入る材料で、縦4センチ、幅13センチ(菓子作りに使用する一般的な型の大きさ)の「ホワイトチョコチーズテリーヌ」を作る。用意したものは次の通り。

【材料】
 ホワイトチョコ50g、クリームチーズ100g、レモン汁8g、砂糖30g、生クリーム80g、薄力粉10g、卵1個、クッキーを砕いたもの適量

 

【調理器具】鍋、ボウル(容器)3個、ゴムヘラ、泡立て器、ハンドミキサー、ざる、菓子用の型(耐熱のもの)、オーブン

 

 材料と調理器具をそろえ、調理に取り掛かった。

 
 

 ①鍋で生クリームを温め、ホワイトチョコを溶かす
 生クリームを鍋に入れてコンロの火を付け、弱火に。液状になったクリームがふつふつと泡立つ頃に火を止め、刻んだホワイトチョコを投入する。ゴムヘラでかき混ぜながらチョコを溶かすと、チョコの甘い香りがする液体ができた。

西尾先生に見守られながらホワイトチョコを溶かす記者

 

 ②ボウルでクリームチーズと砂糖を混ぜる。そこに卵を溶いて入れ、さらに混ぜる
 ボウルに入れた固形のチーズをハンドミキサーで混ぜて半個体にし、砂糖を入れる。ミキサーの使用は初めて。見かねた西尾先生から「ミキサーのスイッチは、チーズをボウルに押しつけながら入れる。そうしないとチーズが飛び散る」と丁寧なアドバイスがあった。

初めてのハンドミキサーで、チーズと砂糖をかき混ぜる。ミキサーをきちんとボウルに押しつけることを意識する

 別の容器で溶いた卵を2~3回に分けてボウルに入れ、その都度ミキサーで混ぜる。西尾先生から「溶いた卵をボウルに入れる際、最後はゴムヘラを使って容器に残った卵をできる限りこそぎ取ってほしい」と指摘が入った。「使う材料や調味料が想定より1グラム変わると、別の工程で使う分量も変わってしまう」と先生。おいしく作ろうと思うならば、グラム単位で細かな点に注意を払う必要があるようだ。料理に慣れた人には常識だろうが、気持ちが引き締まった。

 

 ③ ①で作ったものを少しずつ混ぜ、レモン汁を入れる
 ②に、①の鍋で溶かしたチョコと生クリームの液体を入れる。入れる際は泡立て器で②を混ぜながら入れると、液体同士がなめらかに混ざり合うという。この時も②と同様、液体が鍋に残らないよう、ゴムヘラでこそぎ取りながら入れるのがポイント。

鍋に入っているのが①で作ったもの。泡立て器で混ぜながら入れることで、なめらかな生地になる

 液体を泡立て器で混ぜてなじませたら、レモン汁を投入する。チーズ菓子にはレモンのような酸味を入れるとよりおいしくなるという。

 

 ④薄力粉を振るいながら入れて混ぜ、こす
 オーブンで焼いた際に菓子を固まりやすくする薄力粉を入れる。薄力粉は粒子が細かく塊になりやすいため、ざるで振るいにかけながら入れると、塊にならず、生地に混ざりやすくなるという。薄力粉は焼いても溶けないため、塊のまま焼き上がると白い粒として残り、見栄えが悪くなる。

 できた生地を、再びざるでこして、別のボウルに移す。生地をよりなめらかにするための工程で、西尾先生は「一度こすかこさないで、できあがった菓子のなめらかさが全然違う」と話した。

生地をざるでしっかりとこす。口当たりの良いお菓子にするための大事な工程だ

 細かな工程一つ一つに重要な意味があり、常に気を張る必要がある。普段から料理をする人は、一つ一つの工程に注意を払い、仕上げているのかと思うと、料理の奥深さを知り、感謝の気持ちが湧いてきた。

 

 ⑤型の底に砕いたクッキーを敷き、生地を入れる
 粉末状になるまで砕いたクッキーを型の底に敷き、④の生地を注いでオーブンで焼き上げる。「テリーヌ」とはフランス語で容器のことで、今回のように型の容器に具材を詰めて焼いたり湯煎したりする料理のことを言うらしい。

 テリーヌの質を上げたければ、生地を入れる前に、粉末状になるまで砕いたクッキーにバターをなじませた上で、型に敷く。冷蔵庫で冷やしておけば、クッキーが固まり、完成後に崩れにくくなる。

容器に生地を入れる。容器の底に見えるのは砕いたクッキー

 

 ⑥170度のオーブンで30分、湯煎焼きする
 湯煎焼きはオーブン内を蒸し焼き状態にし、菓子をふんわり焼き上げる手法。オーブンに入れる際、型を乗せる天板に、沸騰した湯を、型が浸るぐらいまで注ぐ。

天板には約5センチの深さがあり、ここにお湯を張る。生地と一緒に焼くことで、オーブン内で蒸気が発生し、しっとりと焼き上げることができる

 オーブンに入れ、温度は170度、時間を30分に設定。後は待つだけだ。

 

 ⑦冷蔵庫で30分冷やして完成
 30分後、オーブンから天板を取り出すと、ケーキ特有の香ばしくて良い匂いが漂った。型の熱が少し冷めるまで1、2分ほど置き、型を冷蔵庫に入れて30分ほど冷やして固めれば完成。

 

 戸惑いながらのお菓子作りだったが、掛かった時間は焼き上げと冷却を合わせて1時間弱。完成したテリーヌを型から取りだして皿に盛り付けると、ひいき目かもしれないが、良い出来映えに見えた。西尾先生は「完璧です。絶対においしいと思います」と太鼓判を押してくれた。

 
完成したホワイトチョコチーズテリーヌを切り分けて盛り付けた。紅茶は西尾先生が、ホワイトチョコの香りがするものを選んで入れてくれた

 せっかく作ったので、女性の感想がもらいたい。紅茶コーディネーターでもある西尾先生が入れてくれたホワイトチョコの香りの紅茶を添え、バレンタインデーに完全な義理チョコをくれた後輩女性(25)を呼び、試食してもらった。

 後輩は手作りと聞いて驚きながら、テリーヌを口に運び「チーズの味がしっかりしていて、なめらかで濃厚。おいしい」との感想。素材の味だけが褒められた点は気になったが、工程がうまくいったからこそ味も良かったのだろうと自分に言い聞かせた。

 

 手作りの上、さらにおいしいとなれば、贈られた人に喜んでもらえそう。作った側として、おいしいと言ってもらうのは純粋にうれしい。今後はホワイトデーだけでなく、手作りの料理やお菓子作りに挑戦し、取りえのない男からの脱却を目指したい。