2019年の参院選で河井克行元法相から現金を受け取ったとして、広島地検は公選法違反の罪で地元議員ら9人を在宅起訴し、25人を略式起訴した。東京地検特捜部は被買収側100人全員を不起訴にしたが、検察審査会が公職にあって現金を受領し、返金も辞職もしないなど悪質な35人を起訴すべきだとし「起訴相当」の議決をした。
特捜部は検審が「不起訴不当」として再検討を求めた46人を含め、計81人を再捜査。現金受領を認定しながら、元法相との力関係から現金を押し付けられるなど「受動的な立場」だった―と一律不起訴にした処分を見直した。起訴相当34人の事件を広島地検に移送。46人については移送せずに改めて不起訴にした。
河井元法相は買収の罪で実刑が確定し、議員辞職。初当選した妻の案里氏も一部で共謀したとして有罪が確定し、当選無効となった。その一方で、被買収側の責任を一切不問に付してしまっては、現金を受け取るという違反行為を軽視することになり、民主主義の土台たる選挙の公正が揺らぎかねない。刑事司法全体の信頼も損なわれる。
くじで選ばれた一般の人11人から成る検審の「市民感覚」が処罰のゆがみを正したといえる。元法相夫妻を有罪にするため不起訴と引き換えに被買収側から有利な証言を得たとの批判もあり、検察は猛省すべきだ。
河井元法相は広島選挙区から出馬した案里氏を当選させるため19年3~8月、広島県議や広島市議、自治体首長、選挙スタッフら100人に1人につき300万~5万円、計約2870万円を渡した。市民団体は被買収容疑で100人を告発。特捜部が21年7月、死亡した1人を除く全員を起訴猶予にしたため検審に審査を申し立てた。
今年1月に公表した議決書で検審は被買収側一人一人について受領の経緯を詳細に検討。とりわけ受領時、公職に就いていたかどうかを重視し、さらに金額、返金や辞職など事後対応を基に35人を起訴相当とした。
一律不起訴を巡っては過去に数千円受領で略式起訴した例もあり、検察内に整合性を疑問視する声もあった。本来は個別の事情を見極め、起訴か不起訴か慎重に判断すべきだったが、元法相らの有罪立証に前のめりになっていたとみられる。
結局、起訴相当35人のうち34人について検察は、容疑を認めれば罰金刑の略式起訴とし、否認などの場合は正式起訴し公判請求すると決定。地元議員は、いずれかで有罪が確定すれば失職する。
検察は独自捜査事件や警察が捜査した事件で起訴、不起訴を決める強力な権限を持つ。その権限が恣意(しい)的に運用されないようチェックするのが検審の役割だ。不起訴の事件について起訴相当と議決し、改めて不起訴となっても、2度目の起訴相当議決で強制起訴となる仕組みになっている。
最近では菅原一秀元経済産業相も公選法違反容疑で告発され、特捜部は不起訴にしたが、検審による1度目の起訴相当議決後、略式起訴した。
自民党京都府連で長年にわたり、国政選挙前に候補者から集めた資金を地元議員側に配ってきた問題が発覚。19年参院選で当選した府連会長らが公選法違反容疑で告発されるなど「政治とカネ」の問題が後を絶たない中、検察は市民感覚の重みを忘れてはならない。