ロシア軍によるウクライナの原発や核関連施設への攻撃、チェルノブイリ原発の占拠という異常事態が伝えられる中、東京電力福島第1原発事故から11年の3月11日を迎えた。

 人類史上初めて、多数の原発が稼働する国が本格的な戦場となり、原発が標的となった。原発が広範囲かつ長期間の放射性物質の汚染を引き起こすリスクは津波以外にも多い。11年後のこの日を、原発のリスクを再認識し、脱原発への道を探る機会としたい。

 事故後、原発が抱えるリスクは果たして小さくなっただろうか。答えは否だ。政情が不安定な中東で原発建設が進んでいる。ロシアの所業は原発が容易に戦闘の標的となることを明確にした。制圧されたザポロジエ原発は欧州最大級で大事故への懸念もある。

 建設コストの高騰で先進国の原発産業が衰退する中、新規の建設はロシアと中国が中心だ。いずれも平和利用に重要な「民主・公開」の原則とはほど遠い国だ。深刻な事故の際に、国際社会に迅速かつ十分な情報が提供されるとは思えない。

 ここ数年、気候危機が深刻化し、高潮や暴風雨、干ばつなど自然災害の規模が拡大している。沿岸や川沿いに立地することが多く、大量の冷却水の安定的な確保が必要な原発が直面する災害リスクも、外部電源喪失の危険度も増す一方だ。

 戦争や災害で原発が止まれば、膨大な量の電力が一挙に失われるので、原発依存は電力の安定供給上も大きなリスクだ。11年前、多くの人が突然の計画停電で大きな影響を受けたことを忘れてはいけない。そして、これが戦時に敵国の原発が標的となる理由の一つだ。

 ウクライナ危機の中、天然ガスなど海外からの化石燃料の高騰が日本経済に大きな影響を与えている。エネルギー安全保障の観点からも、気候危機への対応からも、輸入化石燃料への依存度を下げることも急務だ。

 ここで聞こえてくるのが「脱炭素、脱化石燃料には原発が不可欠だ」という議論だ。だが、この間、気候危機対策としての原発の重要度は高まったと評価していいだろうか。

 福島事故の影響もあって、原発の建設コストは膨れあがり、工期も延びている。一方で、再生可能エネルギーや蓄電池の価格は急激に低下した。

 産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑え、気候危機の影響を可能な限り小さくするためには2030年までに温室効果ガスの排出を大幅に減らすことが必要なのだが、この点への原発の貢献度は大きいとは言えない。しかも日本の場合、燃料のウラン資源は海外依存だ。

 不安定化する世界と深刻化する気候危機の中、日本は多くのエネルギー問題に直面している。

 対応は急務だが、それは高価でリスクのある原発の再稼働や、化石燃料関連産業への補助金などといった安直な対策でも、アンモニアや水素といった未知の新技術への投資によっても解決できない。今ある技術を最大限駆使して、国産資源である太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーを増やし、省エネを進めることが答えだ。

 日本ではこの11年間、既得権益に配慮する旧態依然としたエネルギー政策が続いてきた。政策決定者は今こそ、勇気を持って政策の大転換に取り組むべきだろう。