「何もしなくても売り上げが上がると思っていた」。鳥取砂丘でラクダ乗り体験や土産物販売を手掛ける駱駝(らくだ)屋(鳥取市福部町湯山)の山崎興二社長(51)は、新型コロナウイルス禍が2021年には収まるという淡い期待を裏切られ、ため息をつく。
20年の売り上げはコロナ禍前の19年と比べ5割ほど。巻き返しを見込んだ21年は、書き入れ時の夏場に感染拡大第5波が押し寄せ、さらに落ち込んだ。
鳥取砂丘の観光客数はコロナ禍前から伸び悩む。年間の入り込み客数は1972年の228万人をピークに減り、19年には116万人と半減。20年は57万人、21年は60万人と陰りが濃くなり、老舗ドライブインが閉店に追い込まれた。
反転攻勢の起爆剤として鳥取市や鳥取県が進めるのが砂丘西側の再整備だ。
▽体験・宿泊ゾーン
鳥取砂丘は「馬の背」と呼ぶ高い丘や砂の美術館があり、土産物店や飲食店が並ぶ東側(鳥取市福部町湯山)と、鳥取砂丘こどもの国やサイクリングターミナル砂丘の家、柳茶屋キャンプ場がある西側(同市浜坂)に分けられる。東側は観光ゾーン、西側は体験・宿泊ゾーンといったところだ。
再整備は県営のこどもの国にあるキャンプ場、市営の砂丘の家と柳茶屋キャンプ場を一体的に一新し、グランピング、サイクリングの拠点、学習などの機能を整える想定。民間活力を生かして23年春の開業を目指す。近くに誘致する高級リゾートホテルは24年開業を見込む。
5月開業を予定するのが仕事と休暇を組み合わせたワーケーション用スペースなどのある「SAND BOX TOTTORI(サンドボックストットリ)」。運営するスカイヤー(鳥取県大山町加茂)の宇佐美孝太社長(30)は「多くの人に興味を持ってもらえるきっかけづくりが重要だ。新しい風を吹かせたい」と意気込む。
▽自動運転バス
課題は東側と西側を結びつけ、観光客らが周遊する仕掛けづくりだ。
サンドボード事業者らでつくる鳥取砂丘アクティビティ協会の前田靖志副理事(54)は「東側にはない西側の目玉が必要。グランピングでも、どこでもできるものでは意味がない」と強調。さらに、市の後押しでバス事業者が実証実験を行った自動運転バスの事業化など、東西を結ぶ交通手段の確立を求める。
自動運転バスは低速で渋滞につながりかねず、道路端の白線が見えるよう入念な除雪が必要なことが課題。採算性も事業化の鍵を握る。今回の実験は閑散期で、今後、観光シーズンの実施も検討中。市交通政策課の小森毅彦課長は「全国で普及する前に事業化できれば魅力となる」と話す。
散策ツアーなどソフト面の工夫も欠かせない。東西間の周遊を促すには中間にある多鯰ケ池(たねがいけ)(鳥取市福部町湯山)の活用も一案だろう。かつてボート遊びの客らでにぎわった名所で、再び光を当てようと住民グループが近年、散策道整備やイベント開催に取り組む。
鳥取砂丘に魅力を加え、コロナ禍収束後の観光客呼び戻しを加速させられるか、西側の再整備とその活用の成果が問われる。
(鳥取総局報道部・岸本久瑠人)