北大西洋条約機構(NATO)、先進7カ国(G7)、欧州連合(EU)が相次いで首脳会議を開き、ロシアのウクライナ侵攻の停止、ウクライナ全土からの撤退を要求し、対ロシア制裁網の強化で合意した。

 日米欧の結束はロシアの非人道的な攻撃を非難する世界の声の反映である。プーチン・ロシア大統領は化学兵器の使用など破滅的な暴挙に決して出てはならず、直ちに停戦に応じてロシア軍を撤退させるべきだ。

 一連の首脳会議では、制裁対象の拡大や制裁逃れへの厳格な対処で合意し、ウクライナへの支援の強化も決めた。NATOは中国に対して、ロシアの戦争を支援せず、制裁回避の手助けを自制するよう求めた。中国は責任ある大国として、軍事力で国際規範を踏みにじったロシアへの支持や中立の態度をとるのでなく、非難の声に加わるべきだ。

 並行して開かれた国連総会の緊急特別会合は、ロシアに民間人攻撃を即座に停止するよう求める決議を140カ国の賛成で採択した。反対はロシア、北朝鮮など5カ国だけだった。国連総会は3月2日にも141カ国の賛成でロシア非難決議を採択しており、ロシアの孤立は明白だ。

 侵攻から1カ月以上たった戦況は、ロシア軍の準備不足、ウクライナ軍の高い士気、米国などのウクライナへの軍事支援で膠着(こうちゃく)状態に陥った。多数のロシア軍将兵の死傷や一部ではロシア軍の後退も伝えられている。短期決戦での勝利を狙ったプーチン氏のもくろみは崩れた。

 日米欧が科した経済制裁の対象は金融や資産、先端技術に加えてロシアの外貨獲得源であるエネルギーにも広がり始めた。大手エネルギー企業をはじめ外国企業が悪評を嫌ってロシアから撤退している。国民経済は相当な痛手を被っている。

 だがプーチン氏に翻意の兆しは見えない。南部の都市マリウポリは遠距離からの無差別攻撃で廃虚と化し、多数の市民に犠牲がでている。ロシア軍は原子力施設への攻撃に加えて、非人道性が高い「白リン弾」を使ったと非難されている。

 国際刑事裁判所(ICC)はロシア軍による戦争犯罪の捜査を開始したが、戦況の膠着にいらだつプーチン氏が化学兵器など殺傷能力の極めて高い兵器で局面打開を狙う懸念もある。

 バイデン米大統領はロシアが化学兵器などを使用した場合「相応の対応を取る」と明言した。ウクライナ軍に対するこれまでの情報や兵器の提供を超えた支援も想定され、戦争が一挙にエスカレートする可能性がある。

 ロシアとウクライナの停戦協議は、ウクライナの中立化・非武装化や、ロシアが2014年に一方的に編入したクリミア半島のロシア主権、ウクライナ東部の親ロ派支配地域の独立承認などが論点で難航している。

 しかし、忘れてはならないのは、この悲劇はロシアが民主的な選挙で誕生したウクライナのゼレンスキー政権を転覆させる目的で始めたことだ。ロシアの要求を受け入れて横暴を認めることは、本来あってはならない。

 プーチン氏は「ウクライナを占領する意図はない」と言うが、信用できない。一刻も早い停戦を実現し、市民のこれ以上の犠牲を防ぐためにも、国際社会はプーチン氏に圧力をかけ続ける必要がある。