国土交通省が今年1月1日時点の公示地価を発表した。全国平均では商業地が前年に比べて0・4%増、住宅地は0・5%増と、いずれも2年ぶりに上昇に転じた。ただ商業地の戻りは鈍く、新型コロナウイルス感染症流行前の水準にはまだ達していない。
山陰両県の全用途の平均変動率は島根がマイナス0・7%、鳥取がマイナス0・8%。下落幅はともに0・2ポイント縮小した。
2021年はコロナの流行が続き、東京五輪も緊急事態宣言下で開かれた。それでもワクチン接種が進み、20年のような厳しい営業自粛措置などは取られなかった。この結果、人の動きや経済活動がある程度は維持できたため、と分析できる。
ただ、先行きの予測は難しい。ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁もあって原油価格が上がり、米欧ではインフレが加速している。米国は政策金利を引き上げたが、急速な引き上げは世界経済の失速を招く恐れもある。
国内でも原油、穀物の高騰、円安もあってエネルギー、食料品の値上がりが目立つ。この高騰に賃上げのスピードが追い付かなければ、住宅の購入を控える動きにつながる。地価に影響する可能性があるだけに、物価動向を注視すべきだ。
商業地の状況を詳しく見ると、大阪市の繁華街ミナミのように、訪日外国人に頼っていた地点は引き続き下がっている。銀座のある東京都中央区など都心3区も下落した。飲食や観光客に関連した需要が減ったことやオフィス市況の不透明感が大きいとみられる。
その大きな要因として、テレワークの広がりがある。もともとはコロナ感染を避けるため、出社を控える方策として導入された。これが普及することによって企業が本社のオフィス面積を減らすのではという見方があるからだ。
一方で、出社して対面で仕事することは、若い世代を中心に社員の不安を和らげ、人材の育成にも役立つ。さらに、同僚との連帯感が生まれることで生産性が上がり、企業文化づくりにも生かされるとの評価もある。
これらを背景に不動産協会は、今後の企業は本社を都心に置き、それ以外の地域にサテライトオフィスを用意、コロナ後も在宅やサテライトでテレワークしながら、定期的に本社に出るようなハイブリッド型の働き方が主流になると想定。オフィス需要はあまり減らないと結論付けており、注目したい。
地方はテレワークする人を呼び込むことで地価を上げる方策を考えたい。総務省の21年人口移動報告によれば、東京都では1年間の転入者が転出者を上回ったものの、その数は5433人、20年より2万5692人も減った。東京23区に限れば転居による人口流出だ。
1都3県、東京圏全体の転入超過も1万7544人縮小して8万1699人。東京居住を避ける人は確実に増えている。別荘地のある長野県軽井沢町や静岡県熱海市などで地価が上昇したことがそれを裏付けている。
コロナ下で、多くの企業はインターネットがあれば仕事はできると知った。人材確保のため働く場所や居住地を柔軟に選べる仕組みを導入する企業も目立つ。「デジタル田園都市国家構想」を進める政府は、転職せずに地方へ移住することを後押しする政策に力を入れ、東京一極集中の是正に生かすべきだ。