ロシアのウクライナ侵攻から1カ月が過ぎた。他国の主権と人命を踏みにじる暴挙をやめさせるには、国際秩序を重んじる各国リーダーの指導力発揮が欠かせない。岸田文雄首相は、平和構築のためロシアへの制裁とウクライナとの連帯を、国民の理解と協力を得て強めていく必要がある。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が国会で、海外の要人として初めてのオンライン演説を行った。ゼレンスキー氏は日本が「すぐに援助の手を差し伸べてくれた」と謝意を表明。その上で、ロシアの千発以上のミサイル攻撃などで子どもを含む数千人の犠牲者が出ていると指摘し、「多くの町で殺された人を葬ることもできない」と悲惨な状況を報告した。

 国内外への避難者は人口の2割以上に当たる1千万人を超え人道危機は深刻さを増している。岸田首相ら各国の指導者はロシアの蛮行に対し、言葉の限りの非難を続けねばなるまい。

 しかし、ロシアのプーチン大統領は停戦に応じて軍隊を撤退させる気配を見せていない。ゼレンスキー氏は「侵略の津波を止めるためにロシアとの貿易を禁止しなければいけない」と国際社会の圧力強化を要請。日本には経済制裁の継続を求めた。

 日本は欧米と足並みをそろえてプーチン氏らロシア政府関係者の資産凍結や貿易上の優遇措置撤回などの制裁措置を決定。ウクライナへの1億ドルの人道支援も表明済みだ。

 岸田首相はゼレンスキー氏の演説を踏まえ、さらなる制裁と追加の人道支援を検討する考えを示した。憲法の制約もあって日本は軍事支援はできないが、日本は取り得る措置がロシア経済、ひいては軍事費に影響を及ぼすよう知恵を絞らなくてはならない。

 共同通信の世論調査では、日本の経済制裁について85%超が「支持する」と答えた。だが制裁を重ねれば、物価高を招き国民生活に支障が出かねない。岸田首相はウクライナへの連帯の思いを損なわないよう国内対策にも万全を期してもらいたい。

 ゼレンスキー氏はロシアの拒否権行使を念頭に、国連安全保障理事会が機能していないとして国連改革の必要性を強調した。常任理事国入りを目指す日本の後押しになる発言であるが、紛争解決に当たって責任が増すことになる。その覚悟があるか国民にも問いかけなければならない課題だ。

 ふに落ちないのは、2022年度予算に約21億円計上したロシアとの経済協力関連経費の取り扱いだ。北方領土交渉についてロシア側から中断通告を受けながら、関係維持を図るような対応には、国際社会からも疑念の目を向けられる可能性がある。岸田首相は予算を付けた理由をきちんと説明すべきだろう。

 ゼレンスキー氏は、最悪レベルの事故に見舞われたチェルノブイリ原発をロシアが「戦場に変えた」と批判。国内の原発全てが「危険な状況にある」と指摘した。

 日本も原発事故が多くの避難住民を生んだ。ゼレンスキー氏は「日本の皆さんも住み慣れたふるさとに戻りたいという気持ちはお分かりだと思う」と述べた。その通りであり、ウクライナの現状をわがことと捉えることができるはずだ。一人一人が平和回復とその後の復興のため何をできるかを改めて考えたい。