ロシアとウクライナの停戦交渉で、首都キエフ周辺の軍事作戦の縮小をロシアが表明した。ウクライナは関係国による安全保障の枠組みが創設されれば北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する「中立化」方針を示した。

 今回の交渉が合意の基礎となる可能性が出てきたことを評価したい。しかし、どこまで歩み寄りができたのか詳細は明らかでなく、妥協が難しい対立点は残っているとみられる。交渉の行方は予断を許さない。

 戦況をにらんだ駆け引きが続けば、停戦交渉は長期化しかねない。時間がたつほど市民の犠牲者が増えて人道危機は深刻化し、国土は荒廃する。まずは攻撃を中止し、武器を置いて平和回復の条件を話し合うべきだ。国際社会の一層の仲介努力も必要だ。

 今回の交渉は、両国と関係が深いトルコが仲介してイスタンブールで行われた。ロシア側はキエフと北部チェルニヒウ方面で軍事作戦を大幅に縮小すると表明した。縮小が実際に行われるか、どの程度の規模になるか注視したい。ロシアはこれを「信頼醸成措置」としているが、額面通りには受け取りにくいからだ。

 ロシアは当初、短期間でキエフを陥落させ、ウクライナのゼレンスキー大統領の政権を倒せるとみていただろう。だがウクライナ軍の激しい抵抗で苦戦し、親ロ派武装勢力が一部を実効支配する東部ドンバス地域の制圧を優先する方針へ転換を余儀なくされた。作戦縮小はキエフ攻略に失敗した現状を追認したにすぎないと考えられる。キエフ制圧への態勢を立て直す時間稼ぎかもしれない。

 東部などでは攻撃がむしろ激化する恐れが強い。激戦となっている港湾都市マリウポリではロシアの猛攻が続いて死者が約5千人になったと伝えられた。

 交渉では、ロシア側がウクライナの「中立化」と「非武装化」、さらに「ロシアが強制編入したクリミア半島でのロシアの主権承認」「ウクライナ東部の親ロ派支配地域の独立承認」など厳しい要求を突き付けている。

 ウクライナ側は「中立化」で譲歩の姿勢を示す一方、「非武装化」や領土・主権については原則として譲らない立場だ。今回の交渉で「中立化」の譲歩の前提となる自国の安全保障の関係国として米国、英国、フランスなどを挙げ、クリミア半島の主権問題では今後15年間の協議で解決を図ることを提案したが、これが合意につながるかどうかは見通せない。

 国連機関によると、これまでにウクライナから国外へ脱出した避難民は400万人、国内で避難生活を送る人は650万人、合わせて1千万人を超え、今後も増加は必至だ。世界でも有数の穀倉地帯を抱えるウクライナが戦場となって食料価格が高騰し、アフリカの最貧国などで今後、深刻な飢餓が広がる懸念も強まっている。国際社会は停戦の早期実現に向け、ロシアにさらなる圧力をかけなければならない。

 ゼレンスキー氏は日本の国会演説でロシアへの圧力強化を求めるとともに、戦火が収まればウクライナの復興が可能になると強調した。多くの紛争地の復興支援に携わってきた日本はウクライナ復興でも主要な役割を果たしたい。その日が早く来るよう攻撃中止を求める対ロシア制裁網の強化に努めるべきだ。