成人年齢を引き下げる改正民法が1日施行され、18、19歳の240万人ほどが大人の仲間入りをした。独立した個人として社会に参加し、親の同意なく携帯電話やクレジットカードの契約を結んだり、ローンを組み車を買ったりできるようになる。これに伴い、本人や親が後から契約を取り消せる「未成年者取り消し権」の対象外となる。
また同時施行の改正少年法で、新成人は「特定少年」として家庭裁判所から検察官に送られ、大人と同じ刑事裁判で裁かれる対象事件が拡大。起訴時の実名発表も解禁され、17歳以下の少年より厳しい扱いを受ける。一方で裁判員に選ばれ、殺人など重大事件で裁く側になる可能性もある。
公選法の選挙権年齢は2016年6月、憲法改正の手続きを定めた国民投票法の投票年齢も18年6月から、それぞれ18歳以上になった。今回の成人年齢引き下げは少子高齢化が急速に進む中、若者にあらゆる面で積極的な役割を担ってもらうための総仕上げとなる。
懸念材料は、消費者被害の拡大だ。悪質な商法から成人したばかりの若者を守る制度は十分に整っていないと消費者団体や専門家は危機感を強めている。消費者契約法などの整備を急がなくてはならない。併せて、学校や地域社会で契約について知識や対処法を身につける機会を数多く提供するなど、社会を挙げて支えていく必要がある。
18歳は大学に進学したり、就職したりする人生の節目となる。親元を離れて1人暮らしを始める人も、かなりの数いるだろう。社会との接点がそれまでになく増える。とはいえ、社会経験や判断力には乏しい。多くは経済的に親を頼りにしているとみられ、一応は大人になったものの、まだ子どもという面は残る。
国民生活センターによると、10年度以降、消費者トラブルを巡る18、19歳の相談は年間だいたい4千~5千件だが、成人になりたての20~24歳だと7千~8千件。「高額収入を得るノウハウ」やダイエットサプリメントの購入などが目立つ。
親の同意がない契約を無条件に取り消せる未成年者取り消し権がなくなるのを待って、業者が勧誘に動いていることが分かる。今度は、同じことが18、19歳に起きる。
改正民法と同じ18年6月に成立した改正消費者契約法は、業者が恋愛感情を利用したり、就活中などに不安をあおったりして結んだ契約は取り消せると規定。さらに「退去困難な場所に同行」「威迫する言動で第三者との相談を妨害」などを取り消し権の対象に追加した契約法の改正案が今国会に提出されている。
一定の効果は期待できるだろう。しかし悪質な業者が抜け道を探し、より巧妙な勧誘をすることは想像に難くない。インターネット上の会員制交流サイト(SNS)などにも暗号資産や海外投資の話があふれる。気軽に取引をしたら解約できずに高額な支払いを迫られ、紛争に発展したという例には事欠かない。
判断力や知識・経験の不足につけ込む、冷静に契約内容を判断できる時間を与えないといった行為についても、取り消しを可能にすべきだとの指摘が専門家から相次いでいる。できる限り規制漏れをなくすのはもちろん、新成人が安心して大人としての一歩を踏み出せる環境を整えるのが社会全体の責任だ。