子どもの権利に深く関わる法案が国会で審議されている。一つは、政府が来年4月の発足を目指す「こども家庭庁」の設置法案。「子ども目線に立って縦割り行政をなくす」と岸田文雄首相は強調する。厚生労働省や内閣府の保育、虐待などを扱う部署を新組織に移し一元的対応を図る。幼稚園や義務教育などの分野は文部科学省に残す。
もう一つは「こども基本法案」。与野党がそれぞれ議員立法で提出しており、全ての政策の大本となる基本理念、国や自治体の責務などを定める。日本は子どもの「意見尊重」や「最善の利益」をうたう「子どもの権利条約」を1994年に批准したが、対応する国内法整備は遅れていた。
また政府提出の児童福祉法改正案も一時保護などの虐待対応を巡り、児童相談所に子どもの意見を聴取し勘案するよう義務付けている。だが自民党内の根強い反対で、与党の基本法案には行政から独立して子どもの権利侵害などを調査し、改善の勧告を行う第三者機関の創設が盛り込まれないなど、意見尊重は後景に押しやられつつある。
こども家庭庁に関係省庁への勧告権を持たせるとはいえ、やはり身内ではなく、外部の第三者によるチェックを要するのは言うまでもない。法整備の実効性を確保するために、与野党ともに掲げている「子ども本位」を掛け値なしに実践することが求められている。
虐待やいじめ、貧困、自殺など子どもを取り巻く問題は年々深刻さを増している。しかし、子どもの声は軽く扱われがちだ。北海道旭川市で昨年3月、いじめを受け失踪した市立中2年の女子が凍死した状態で見つかった。2019年に自殺未遂をした際、学校に電話して教員に「死にたい」と訴えていた。
ところが学校や市教育委員会は当時、母親が相談しても動かず、いじめ防止対策推進法に基づき第三者委員会が調査を始めたのは昨年6月。今年3月になって、いじめがようやく認定された。
虐待を巡っても、児相が子どもの安全を確保するため親から引き離して一時保護しても、激しく抗議する親の言い分に引きずられ、子どもの声に十分耳を傾けずに保護を解除し、重大な結果を招いた例が少なくない。
権利侵害を受けやすく弱い立場にある子どもの声を聞き、代弁する第三者機関は「子どもコミッショナー」などと呼ばれ、欧州を中心に先行例がある。ただ創設については自民党内で「子どもの権利が強調され過ぎる」「誤った子ども中心主義にならないか」と反対論が強まり、積極的だった公明党も法案に明記しないことに合意した。
野党は対案に第三者機関設置を盛り込んだ。加えて、こども家庭庁と文科省とがどのように連携して、いじめ問題に取り組むのか、あるいは新たな縦割りが生じて責任の所在があいまいにならないか、安定した財源を確保できるのか―といった指摘もあり、法案審議を通じて国民に丁寧に説明していく必要がある。
大事なのは、子どもを個人として尊重し、さまざまな人権侵害や差別から守るために、子ども目線の政策を進めていくことだ。それを忘れず、法整備においては、大人の利害や思惑によって子どもの利益が制限されたり、損なわれたりすることがないよう、議論を尽くさなければならない。





 
  






