著書を手に笑顔を見せる田村穂隆さん=松江市内
著書を手に笑顔を見せる田村穂隆さん=松江市内

 出雲市斐川町荘原の歌人、田村穂隆さん(25)の初めての歌集「湖(うみ)とファルセット」が出版された。松江工業高等専門学校(松江市西生馬町)在学中に作歌を始め、雑誌や賞に投稿を続けて実った一冊。31字に詰まった率直な心情が、読者の心を打っている。 (広木優弥)

 親族に勧められるままに進学し、勉強内容が「合っていない」と感じていた2年生ごろ、図書館で現代短歌の指南書を手に取った。心情を吐露する短歌は「自分もできそう」と感じた。

 中学時代から言葉に興味があり、高専では5年間、文芸部に所属。高校総合文化祭の文芸部門(短歌の部)や文芸雑誌への投稿を始め、やがて入選するようになった。「作り手は簡単に詠むことができ、読み手は心に残ったものを覚えておきやすい」ことが、短歌の魅力という。

 島根県内で就職後は短歌誌「塔」を刊行する結社「塔短歌会」(事務所・京都市)に入り、毎月20~30首を詠む。ツイッターでの投稿も続ける。

 2020年秋、現代短歌社(京都市)が、歌集の初出版を支援する「現代短歌社賞」で次席に入った。同年末に出版の誘いがあり、応募した300首を中心に再構成し、計410首を収めた歌集に仕立てた。

 歌集の帯に「そうか、僕は怒りたかったのだ、ずっと。樹(き)を切り倒すように話した」を載せた。19年ごろの作品で「迫力がある」と、ツイッター上などで評価を受けたお気に入りの一首だ。自身の生育環境から「祖父は父を父はわたしをわたしはわたしを殴って許されてきた」など、家族やジェンダー(社会的な性差)に関する歌が多い。

 「宍道湖の水面(みなも)がまるで雪原のような白さに広がっていた」をはじめ「9号線」「銅剣三百五十八本」と地元関連の歌もある。

 3月に出版後、封書やインターネットで多くの感想を受け取った。「感想をもらい初めて気付いた自分の感情もあった」と喜ぶ。目標は次作の出版。「何年かかるか分からないが、作歌を続け達成したい」と意欲を見せる。

 四六判176ページ。山陰両県の主要書店で販売中。2200円。