韓国の第20代大統領に保守系の尹錫悦(ユンソンニョル)氏が就任した。歴史問題により、革新系の文在寅(ムンジェイン)前政権下で「過去最悪」と言われるまでになった日韓関係について、尹氏は改善への強い意志を示している。冷え切った関係を修復するには、信頼の醸成が欠かせない。そのためにも、岸田文雄首相は尹氏との首脳会談を早期に行うべきだ。

 岸田氏の特使として就任式に出席した林芳正外相は尹氏と面会し、日韓関係の改善へ協力することで一致した。外相候補である朴振(パクチン)氏との会談では、日韓ハイレベル対話の促進を確認している。この機会を逃さず、関係改善を進めるのは、両国の責務と言っていい。

 岸田氏は、尹氏が大統領選で勝利した後の電話会談で「健全な日韓関係はルールに基づく国際秩序を守り、世界の平和、安定、繁栄を確保する上で不可欠だ」と述べている。バイデン米政権も、2月に公表したインド太平洋戦略で、日本や韓国との同盟強化など5本柱を掲げて、懸案に対処するには日韓の緊密な連携が欠かせないと強調した。

 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を繰り返し、月内にも核実験の準備を完了する可能性も出ている。ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義など、国際秩序が脅かされている中で、自由主義の価値観を共有する日韓の対立は、地域の安定にとってマイナスでしかない。日韓関係の改善は「待ったなし」の課題と言える。

 一方で、その道が容易ではないことも事実だ。尹氏は元徴用工や元慰安婦といった歴史問題のほか、日本による対韓輸出規制強化などの懸案について、包括的に解決したいとの考えを示している。だが、その具体策は明らかではない。

 最大の懸念となっているのが、日本企業に元徴用工への賠償を命じた2018年10月の韓国最高裁の判決だ。日本企業の韓国内資産の売却に向けた手続きが進んでおり、実際に現金化されれば日韓関係に重大な影響をもたらすのは確実だ。

 日本政府は1965年の日韓請求権協定で解決済みだと批判し、事態打開の責任は韓国側にあるとの姿勢を貫いている。尹氏の就任式に岸田氏が出席を見送ったのも、韓国への不信感が自民党内や外務省でいかに強いかの表れだった。

 関係者によると、尹氏が日本に派遣した政策協議代表団は政府要人らとの面会で、現金化に対する日本側の強い懸念を十分に理解するとの考えを伝えたという。新政権では、韓国政府が賠償を肩代わりするなどの解決策が検討されるだろう。

 だが、国会では革新系の最大野党「共に民主党」が過半数を握っており、尹氏は厳しい政権運営を強いられる。元徴用工問題で日韓が合意しても、野党の反発で進展できない事態も考えられる。

 そうした困難な時期にこそ、両首脳が直接会い、懸案の外交的解決を図るとの考えをはっきりと示すことが重要だ。方向性を示すことで、冷静な協議が可能となる。

 尹氏は98年の金大中(キムデジュン)大統領(当時)と小渕恵三首相(同)による日韓共同宣言を高く評価している。日本側も宣言の精神に立ち戻り、かたくなな姿勢を改め日韓首脳が相互訪問するシャトル外交の復活など、関係改善の成果につなげていくことが求められている。