「VR体験道場」と体験メニューが大々的に描かれた看板=松江市宍道町伊志見
「VR体験道場」と体験メニューが大々的に描かれた看板=松江市宍道町伊志見

 松江市宍道町伊志見の国道9号沿いに「VR体験道場」という看板を掲げた、謎のプレハブの建物が出現した。多数あるのぼりには「オープン」「VR体験」とあり興味を引かれるが、道路からは建物の中が見えない。どんな店なのか訪ねてみた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
 

 VRは「バーチャル・リアリティー(仮想現実)」の略称。最近はVRゴーグルと呼ばれる専用の器具が出現し、着けるとまるで本物のような精巧な映像を見ることができる。ゴーグルを使ってさまざまな仮想現実を体験することをVR体験と呼ぶ。

 店舗の側面には派手な黄色い看板があり「一本橋200円」「レーシング100円」と、メニューらしきものと料金が書かれている。店の中では看板に書かれている体験が楽しめるということだろう。外観は独特の雰囲気があるが、意を決して足を踏み入れた。

建物正面。全ての窓に建物をPRする内容の紙が貼られ、外からは中が見えにくい
体験メニューが描かれた看板。手作り感がたっぷりだ

 

 ▼25通りの仮想空間を体験可能

 オーナーの金築知也さん(36)が応対してくれた。近くにある介護、不動産事業の「松江テクノサービス」のデジタル部門次長でもあり、VR体験の魅力を島根県で広めようと、社長の協力を得て4月12日にオープンしたという。

VRゴーグルを手にほほ笑むオーナーの金築知也さん

 VRで体験できるソフトの数は25。高層ビルの上の一本橋を歩いたり、ジェットコースターに乗ったりする体験のほか、操作機を使ったレース、アクション、シューティングゲームが楽しめる。米グーグルの衛星写真を利用したサービス「グーグルアース」を活用した世界各地の風景や、動画投稿サイト「ユーチューブ」にある観光動画を眺めることもできる。

 店舗の広さは約40平方メートル。用意されたゴーグルは6個で、ついたてで区分けされた六つの空間で体験できる。それぞれの空間にはゴーグル着用者が座る椅子のほか、家族連れなどが同時に楽しめるよう、ゴーグルと同じ映像を映すモニターが設置されている。

オープンしたばかりとあって、建物の中はきれいで居心地は思ったほど悪くない。それぞれの区間に置かれた椅子に座ってVRを体験する

 新型コロナウイルス禍で遠出や海外旅行がまだ難しい中、仮想とはいえさまざまな体験ができるのは魅力的に思える。ただ、金築さんは「オープンを大々的に宣伝していないからか、まだ来客は数えるほど」と苦笑いする。やはり独特の外観でためらう人が多いのか。「体験してみますか」と誘われ、人生初のVRを体験することになった。

 

 ▼80階ビルの高さを体験、気になるリアルさは…

 体験したのは金築さんが一番お薦めするソフト。80階建てのビルの屋上から伸びる一本橋を渡り、橋の先にあるケーキを拾うというもの。現実なら足がすくむような高さだが、果たして仮想現実はどれほどのリアルさなのか。

 眼鏡を外してゴーグルを頭に着用し、懐中電灯ほどの大きさの操作機を両手に握った。映像の中に目線を向けると、ちゃんと人の手として映る。視界いっぱいに映像が映り、後ろを向けば後ろにあるエレベーターが見える。360度どこを向いても景色が見えるため、実際にその場にいるよう錯覚する。

 ビルの1階でエレベーターのボタンを押す所からスタート。数秒待ってエレベーターの扉が開くと、高層ビルを眼下に望む高所の景色が飛び込み、思わずたじろいだ。回りをヘリコプターが飛び、強い風の音が聞こえ、実際に風を肌に感じるよう。「それは本物のエアコンの風ですね」と金築さんから冷静な指摘が入った。

VRゴーグルで見る高所の景色。橋の先端にあるケーキが近いようで遠い
真下を見るとはるか下の道路を走る車が見える。VRゴーグルではモニターで見るよりもリアルな映像が見られる

 眼鏡を外して視力が落ちているからか足がすくむほどではないが、空には雲が流れ、はるか下の道路で車が走るなど映像はリアルだ。おぼつかない足取りで7、8歩ほど歩いてケーキに到達し、拾い上げると映像上で食べることができた。

VRゴーグルで見える景色の精巧さに感嘆する記者。少し腰が引けている
仮想現実のケーキを手に取ろうとしゃがみ込む。はたから見れば滑稽だが、本人は地上80階からの景色を見ているため真剣だ

 金築さんから「せっかくなので落ちてみましょう」という提案が。恐る恐る足を橋から1歩横に出した。途端にすごい速さで地上に向けて落ち始め、思わず「うわっ!」と声が出た。上を見るとさっきまで乗っていた橋がみるみるうちに遠くなり、下を見るとはるか下にあった道路がどんどん迫ってくる。落ちている最中でも回りのビルに視線を向けることができ「どこまで忠実なんだ」と逆に冷静になった。そうこうしているうちに地面に到達して視界が真っ白になり、体験は終了。仮想体験にもかかわらず心臓は激しく脈打って、高所からは絶対に落ちたくないとしみじみ思った。

 

 ▼介護福祉への活用も視野

 ほかに体験した人気ホラーゲーム「バイオハザード4」(カプコン)の仮想空間では、両手の操作機を使って銃の引き金を引いたり弾を込めたりする操作まで忠実に再現されていた。VRの再現性は想像以上だ。

 金築さんは「VRの存在が島根に広がることで、VRを活用したさまざまな事業が登場する可能性がある」と力を込める。将来的には1人で移動ができない人に旅行気分を楽しんでもらうなど、介護福祉の部門を中心に活用を目指すという。

 利用料金は5分程度のVRを100円から体験可能。フリータイム料金は10分200円で、30分ごとに100円が割り引かれる。30分なら500円、60分なら千円。12歳以下の子どもはゴーグルのメーカーから使用許可が出ておらず、ゴーグルを使用できないため注意が必要だ。営業時間は午前10時~午後7時で、月曜定休。

VR体験道場の外観。窓に貼られたPRの紙とたくさんののぼりが目印だ

 

 外観には少し身構えてしまったが、中では丁寧な対応で最新鋭の技術が体験できた。金築さんによると、VR体験専用の施設は調べる限り島根県内初だという。「VR体験に興味はあるけれどもゴーグルを買ってまでは…」という人は、VR体験道場で仮想現実の世界を体験してみてはいかがだろうか。