切迫した課題である新型コロナウイルス対策が重要なのは自明だが、一方で厳密さを欠く安易な私権の制限も許されない。そんな司法からの警告と言うべきだろう。緊急事態宣言下の昨年3月、東京都が都内の飲食チェーンに出した強制力を伴う営業時間短縮命令の適否が争われた訴訟の判決で、東京地裁は法定の要件を満たしていなかったとして命令を違法と認定した。

 従わないと行政罰の「過料」を科されることもある時短などの命令は、知事の要請に応じない業者らを想定し、同年2月に施行されたコロナ対応の改正特別措置法で新設された。今回のケースが全国初の適用で、命令を巡る司法判断も初めてだ。

 これまで適用基準は必ずしも明確ではなかったが、判決は他の店とは違い、罰則のある規制もやむを得ないと言える程度の「個別の事情」が必要などとする判断を示した。都道府県はこれを物差しの一つとして、感染対策と国民の権利保護の両立に努めてもらいたい。

 問題の時短命令は、要請を拒み続けた27店舗が対象で、うち26店が同じ飲食チェーンの店だった。その時点で3日後の宣言解除が決まっており、命令の効力は4日間しかなかった。飲食チェーンはこれに従った。

 国民の生命・健康を守り、暮らしや経済の混乱を回避するため、改正特措法は命令の要件を「特に必要があると認めるとき」に限定している。

 これらを踏まえ、判決は(1)飲食チェーンの店舗は感染対策を実施していたが、都はその実情などを確認していなかった(2)4日間の時短営業で抑止し得た新規感染はわずかだった―と認定した。

 その上で「4日間しか効力がない命令をあえて出した必要性や、命令を出す判断の考え方や基準などについて、都は合理的な説明をしていない」と指摘。「規制もやむを得ないと思われる程度の個別の事情があったとは言えない。命令が特に必要だったと認められず、違法」と結論付けた。

 命令の運用は慎重でなければならず、個別に実情をチェックし、合理的な効果が期待できる場合でなければ認められない―。そう言っており、うなずける内容だ。

 飲食チェーン側は、改正特措法の命令規定は憲法が保障する「営業の自由」を侵害しており違憲とも主張したが、判決は「法の目的に照らして不合理な手段とは言えない」と退け、合憲とした。

 命令を出す都知事の判断についても「学識経験者の意見聴取の結果はこぞって命令の必要性を認めるものだった。先例のない当時に命令を差し控えるとの判断は期待できず、過失があるとまでは言えない」とし、賠償請求を棄却した。飲食チェーン側は即日控訴した。

 コロナ感染者が国内で初めて確認されてから2年余りが経過した。この間、飲食店などは感染対策に翻弄(ほんろう)されてきた。しかし、判決後の記者会見で松野博一官房長官は「地方自治体に関わる訴訟」と人ごとのようだった。これは非難に値する。

 これまでに都は計192店舗に命令を発出した。全国各地でも多くの命令が出されている。国は当事者意識を持って、それぞれの命令の必要性や感染防止効果などについて、徹底した検証を主導すべきだ。その蓄積が、適正な命令の基準になっていくはずだ。