新市長は着任後、決断を迫られる。昨春の市庁舎移転後に空き家状態となった旧市庁舎の取り扱いと、凍結されていた市西部2小学校の統合計画という、山下修市長が積み残した難題が待ち受けているからだ。
▽貴重な歴史的建物
旧市庁舎は1962年に完成し、フランスの建築家ル・コルビュジェに師事した故吉阪隆正氏が設計。橋桁を思わせるデザインが特徴で、モダニズム建築として高く評価されている。
「築年数の割に痛みは少なく、耐震改修さえすれば活用できる。図書館や資料館として使える」。旧市庁舎の保存運動を続ける県建築士会江津支部の尾川隆康支部長(65)は、貴重な歴史的建造物として残し、活用を訴える。
市の試算では、改修費は空調やトイレなどを含めて10億円超。市民向けフォーラムなどで活用を求める声が一定数上がる一方で、財政的な負担は重く、解体も選択肢だ。市が模索する民間譲渡も実現には至っていない。
▽40億円超す事業費
旧市庁舎以上に優先順位が高いとされているのが、市西部の津宮小(江津市都野津町)と、川波小(同市敬川町)の統合計画だ。津宮小が60年、川波小が81年の完成で、校舎や体育館の老朽化が目立つ。2010年度には、22年度を目指した統合校舎新設の計画が当時の保護者や地域住民の同意を得た。
地元が同意してなお計画が具体化しないのは、2校の解体を含めた事業費の大きさだ。当初計画時で36億円だった事業費は、時代の変化により授業で使用する通信環境の整備が必要となったほか、昨今の建築資材価格の高騰などで40億円超が予想される。
このため、新設校舎建設▽既存校舎を使った統合▽新設が不可避な体育館に絞って整備した上で2校を残す-といった選択肢があり、市役所内部でも方針が固まっていない。
昨年6月まで教育長を務めた市教育文化財団の小笠原隆理事長(67)は「計画当初は統合小学校に反対する地域住民が一定数いたが、何とか理解を得た経緯がある。計画を変更するのであれば、学校教育の在り方を考えるとともに、市による丁寧な説明が必要だ」と注文を付ける。
▽自主財源3割未満
江津市は人口が県内8市中最少で、自主財源は3割未満。自由度が少ない財政運営を強いられる中、山下市長は「事業の優先順位をしっかり見極めることがリーダーには必要」と説明する。自身の任期中は、耐震問題があった市庁舎の移転新築を優先させた。
市建設部門を取り仕切る山本雅夫参事(60)は「建物ありきのハコモノ行政は人口減社会の時代には成り立たない」と強調。市民にとって必要な行政機能を把握し、公共投資の在り方を熟慮した判断が求められる。