10万人に1人といわれる先天性の病気で、手術を乗り越えリハビリを続ける益田市の中学生が、小学3年生から7年間の野球経験の集大成として6月の県中学校優勝野球大会益田・鹿足地区大会に臨む。「背番号10」でベンチ入りする高津中3年の斎木柊哉(しゅうや)さん(14)。負ければ最後の大会で、支えてくれる仲間や家族らへの感謝の気持ちを込め、胸を張ってグラウンドに立つ。 (藤本ちあき)
斎木さんは1年生だった2020年10月、脳出血で自宅から救急搬送された。診断は10万人に1人の「脳動静脈奇形」。出血する確率はさらに低いが、起きてしまった。医師から「車いすで自宅に帰るのが一番いい状態」と伝えられた母仁美さん(40)は「とんでもない確率を引いたけれど、奇跡を起こせると信じてきた」と振り返る。
その願い通り、2度の手術を経て退院し、高津中に戻った21年3月には自力で歩いた。左半身のまひがあり、野球部の練習には参加できなかったが、試合ではベンチから声援を送った。
県中学校優勝野球大会の地区大会は2年時も、20人以上の部員の中、18人のメンバー入り。部員投票で満場一致だった。「もうグラウンドには立てないと思っていた」。仁美さんと2人、帰りの車中で泣いた。
リハビリを重ね、今では走ることも、ジャンプすることもできる。家族の合言葉は「10万分の1の奇跡」。自身も「もっとできる。これで終わりではない」と前を向き続ける。
4月から体力をつけるため、歩いて登校。5月からは野球部の練習にも週3回参加し、仲間をサポートする。10日に益田市民球場で始まる地区大会ではスコアラーやシートノックのボール渡し役を務める。最後に1打席立つことを目標に素振りも続ける。
「病気になったから出会えた人や気付けたことがある」。リハビリをサポートしてくれた療法士、入院中に千羽鶴と共に激励のメッセージを届けてくれた仲間、恩師、そして家族に恩返しの気持ちで、与えられた役割を果たす。