ベトナムの町並みを思わせる店舗外観
ベトナムの町並みを思わせる店舗外観

 ベトナム出身で松江市在住の実業家ファム・バン・トイさん(38)が、同市寺町にベトナム料理店「Pho Que(フォークェ)」を開いた。本業の人材紹介で、言葉の壁や習慣の違いに悩む同郷人、派遣先企業の経営者を見てきた。「会社で膝を突き合わせて話しても、きっとうまくいかない。飲み、食べながら交流するのが一番の方法だ」と語る。

 店舗はベトナムの町並みに多い緑色の外観で、伝統的な傘帽子「ノンラー」を連想させる飾り、風景写真をあしらった店内に60席を設けた。国民食の米粉麺料理フォーやブン・チャー、牛肉の煮込みなど20品のメニュー構成。単品は数百円から、2~3品のセットは千円超で味わってもらう。

 トイさんは、島根県内企業など45社でベトナム人材約150人の就労につなげたヒューマンサポートジャパン(東京都)を経営。労働者は丁寧語を中心に日本語を学ぶだけに、言い回しの違いで叱られたと感じ、ストレスをため込んで転退職を要望されたケースがあった。コミュニケーションがうまくとれない経営側からの相談もあった。

 2008年に来日し、都会地で自動車関連の設計業務などを経て17年に起業。異国暮らしで戸惑った経験はあるが、移住相談をきっかけに来県した島根の密な人間関係に故郷と似た温かさを覚えた。「島根はベトナム人に合うのではないか」。松江市に先立って事務所を設けた江津市は、赤瓦の続く町並みが祖国の景色と重なり、星高山(470メートル)の山頂付近にある星形の植栽が国旗を思い起こさせたのも決め手になった。19年に家族を呼び寄せた後、日本国籍取得を申請した。

 開店間もない4月半ば、松江市内の製造業で働くベトナム人5人と社幹部4人が来店し、ベトナム料理に舌鼓を打った後、店舗2階でカラオケを歌ったり、踊ったりした。ベトナム人の1人は「上司と話しにくい」と悩みを打ち明けていたが後日、「すごく仲良くなった。仕事を続けられそうだ」と連絡してきたという。トイさんが夢見る「日本人とベトナム人が互いに理解し合える場所をつくること」に向け、一歩を踏み出した。

 島根、鳥取両労働局によると、山陰両県で働く外国人のうち、ベトナム人は島根では国別で2番目に多い1204人、鳥取は最も多い1239人(ともに昨年10月末現在)いる。

 店舗は毎週水、木曜は定休。
      (今井菜月)