日本の少子化に歯止めがかからない。2021年に生まれた赤ちゃんは約81万人と統計開始以降で最少を更新した。1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率は1・30と6年連続で低下した。

 新型コロナウイルス禍による行動制限などが若い世代の結婚や妊娠に影響したとみられ、少子化に拍車をかけている形だ。高齢化に伴い死亡者は増加する一方で、人口減少が加速している。政府は強い危機感を持って対応を急ぐべきだ。

 国立社会保障・人口問題研究所の中位推計では、出生数が80万人を割り込むのは30年としているが、今のペースでは22年にも80万人割れとなる恐れがある。想定よりも速いスピードだ。

 少子化による15~64歳の生産年齢人口の急減は、年金や医療、介護など社会保障制度の持続性を危うくする。

 それだけではない。日本経済が負のスパイラルに陥りかねない。働き手の減少を通じて経済成長率は伸び悩む。国内市場が縮小するから企業の設備投資は減る。技術革新は停滞し、生産性が低下していく。

 政府は現状を放置せず、省庁の垣根を越え、民間企業とも緊密に連携した上で、政策の総動員を図る必要がある。

 少子化の背景としては、未婚者の増加や晩婚化の進行が指摘される。日本で婚外子は極めて少なく、結婚後に出産する人が圧倒的に多い。21年の婚姻件数はコロナ禍も響いて約50万組と戦後最少だった。

 結婚しない、あるいは結婚の時期が遅くなるのはなぜか。高学歴化といった要因もあるが、若者世代を取り巻く経済環境が悪化している影響が大きいだろう。賃金は伸びず、非正規雇用が増加。コロナ禍やインフレの進行など先行きに不透明さがぬぐえない。

 こうした不安感は既に結婚しているカップルにも共通していよう。加えて育児費や教育費などの高さが出産や子育てを尻込みさせている可能性は高い。

 政府はこれまで保育施設の整備や待機児童の解消に取り組み、育児休業制度や児童手当給付の拡充を図ってきた。男性の家事や育児への参加促進の旗も振る。今春からは不妊治療への保険適用を拡大。岸田文雄首相は現行42万円の出産育児一時金の増額に意欲を示す。来年は「こども家庭庁」が発足する予定だ。

 いずれも大事な政策で今後も充実させていくべきだが、既婚のカップルや子どもが既にいる家庭の支援に重点が置かれてきた感が否めない。低賃金で働く非正規雇用や未婚の20~30代への目配りがもっとほしい。

 振り返れば、日本は1990年代後半から2010年代初めごろにかけて、少子化問題を克服する機会を逸している。1970年代前半生まれで人口の多い「団塊ジュニア世代」が出産適齢期を迎えた時期だったが、景気の低迷もあって出生率が回復することはなく、2005年には1・26と過去最低に落ち込んだ。

 このときの失敗から得られる教訓は、雇用を含む経済環境が安定しないと少子化を反転させるのは難しいということだ。

 結婚や出産は個人の自由な選択に任せられるものだからやみくもな奨励策は控えるべきだが、希望する人に対しては実現を後押しする社会的基盤を整えたい。