22日の参院選公示で、島根、鳥取両県では3度目の合区選挙が幕を開ける。解消を求める地元の訴えに対し、国会の議論は停滞を続け、定着化がより顕著になっている。「1票の格差」是正に向け、衆院側でも地方選挙区の定数が減る動きが進む。議員の偏在が深刻な課題として浮かび上がる中、合区を巡る動きを振り返る。
◇
国会終盤へ向け、内閣と衆院議長への不信任決議案提出を巡り永田町内が慌ただしくなっていた8日夕方。参院の「1票の格差」是正を議論する与野党各会派の参議院改革協議会の世耕弘成座長(自民党参院幹事長)が、昨年5月から13回にわたって話し合った結果をまとめた報告書を山東昭子議長に出した。
協議会は格差是正の抜本策を探ってきたものの、選挙制度の在り方は各党の勢力にも関わるだけに主張が対立。報告書は、隣接県同士を一つの選挙区にする合区を「特定の地域のみに適用され不公平。解消すべきだとの意見が多くあった」とする一方、各会派の意見の列挙にとどまった。
終了後、世耕座長は「これを発射台として具体に選挙制度をどうするか(3年後の25年参院選に向け)議論を詰めてもらえれば」と淡々と説明した。
報告書に選挙制度改革の抜本策の記述はない。議論は先送りされ、参院はこれで国民との「約束」を2度にわたりほごにした。
▽果たされない約束
1度目の約束は2015年にさかのぼる。
最高裁が参院選の1票の格差について、10年選挙の5・00倍、13年選挙の4・77倍を「違憲状態」と判断。格差是正のため、国会は15年に合区導入の改正公選法を成立させ、16年選挙で憲政史上初めて「鳥取・島根」「徳島・高知」の4県で導入された。
国会は改正公選法の付則で「19年選挙に向け、選挙制度の抜本的な見直しに必ず結論を得る」と約束したが、いまだに果たされていない。背景にあるのが、各党の格差是正策の考え方の違いだ。
自民と立憲民主党は合区の早期解消で一致する。しかし、自民は1票の価値だけで選挙区を決めるのではなく、都道府県単位の行政区画を加味できるよう憲法改正にこだわり、立民は公職選挙法改正による都道府県代表の確保を主張。公明党と日本維新の会は「全国11ブロックの大選挙区制」を唱え、足並みがそろわない。
▽当事者の声響かず
合区の〝当事者〟である4県の国会議員が声を上げるものの、響く気配はない。
今回の国会から本格的に議論が展開された参院憲法審査会で、初めて合区をテーマにした集中議論が開かれた5月。自民党の舞立昇治参院議員(鳥取・島根合区選挙区)がテーブルに着いた。
舞立氏は対象4県の投票率の低下や有権者の不満などの弊害に触れ「地方の切り捨てや参政権の侵害、不平等感が高まっている」と訴え、都道府県代表の選出のための改憲の必要性を強調した。ただ、ここでも立民は合区解消のための改憲に反対し、維新は1票の格差拡大を懸念し解消自体に否定的な考えを示し、隔たりが改めて浮き彫りになった。
合区解消を巡っては全国知事会など地方6団体や、全国の3分の2以上の県議会が決議、意見書を採択している。「これだけ多くの要望があるのに、なぜこの問題に誠実に向き合わないのか」。集中議論の終盤、舞立氏の声がむなしく会議室に響きわたった。
(政経部・白築昂)