太陽系は約46億年前にできた。太陽の周りに集まったガスやちりから小さな天体が多数でき、互いにぶつかり合体し大きくなって地球など惑星が現れる。高温だった地球が冷えたところに隕石(いんせき)や彗星(すいせい)が降り注いで水や有機物を届け、やがて最初の生命が誕生する。
そんな太陽系誕生、生命誕生のシナリオを検証する研究結果が発表された。日本の探査機はやぶさ2が小惑星りゅうぐうで採取した砂の分析で、生命の元になるアミノ酸や、鉱物の結晶構造に取り込まれた水が見つかった。今後の研究に大いに期待の持てる結果だ。
初代の小惑星探査機はやぶさが岩石試料を採取した小惑星イトカワは温度が約800度になった時期があり、それ以前の物質の記録は全て消えた。りゅうぐうはそれほど高温になっておらず、太陽系誕生から間もない時期の物質の記録をとどめているとされる。
はやぶさ2が一昨年12月、地球に届けたりゅうぐうの石や砂は計約5・4グラム。北海道大などのチームはそのうち95ミリグラムを分析し結果を発表した。それによると、主成分は「層状ケイ酸塩」という鉱物で、結晶構造の中に水が分子やイオンの形で取り込まれていた。水の割合は質量で全体の7%を占める。
この鉱物ができた年代や環境も分かった。酸素やクロムの原子で質量の異なる「同位体」を調べた結果で、約46億年前、りゅうぐうの元の天体が生まれ、約500万年後に内部で氷が解けて約40度の水となり岩石と反応して鉱物ができた。この天体はその後、衝突で壊れ、りゅうぐうが誕生したとされている。
地球の海水に比べ酸素の重い同位体の割合が少し多いことも分かった。地球の水の起源は、りゅうぐうと同じタイプの小天体だけではないことを意味している。
一方、岡山大惑星物質研究所(鳥取県三朝町)などのチームは55ミリグラムの砂を分析し、23種類のアミノ酸を確認したと発表。生物のタンパク質を構成するアミノ酸もあり、生命の源が宇宙から飛来したとの説を支持する結果と言える。小惑星に水やアミノ酸が存在することは、りゅうぐうと同じタイプの天体のかけらとみられる隕石の分析で予想されていた。隕石からは生物の遺伝情報を担うDNAやRNAを構成する「核酸塩基」も見つかっている。
ただ、隕石には地球の物質で汚染された可能性がつきまとう。実際、今回の分析では鉱物に取り込まれた水が隕石の半分ほどしかなく、隕石中の水には地球の水が混ざっているとの見方が出ている。酸素の同位体の割合も少し異なるという。
りゅうぐうの砂や石は地球での汚染から守る形で届けられ、太陽系の歴史や生命の起源を探る上で第一級の試料と言える。国内の複数の研究チームが分析を進めているほか、国際公募で選ばれた研究者にも配られる予定で、どんな発見が飛び出すか今後が楽しみだ。
同じ「生命のタネ」から生まれた人類の間で、争いが絶えない。地球上だけでは飽き足らず、今や宇宙空間での軍拡競争や月の資源開発競争にしのぎを削るありさまで、殺伐とした空気が漂う。
せめて科学の世界では人類一丸となって研究し、平和で豊かな未来を開く土台を築いてほしい。りゅうぐうの砂がその架け橋になることを願う。