あまたの人が銃撃された安倍晋三元首相(67)を追憶していることだろう。事件の一報を聞いた瞬間、8年前の出来事が頭によぎった。時の首相が自ら近寄り、一庶民の肩に手を置いた。安倍氏の人柄をかいま見せた一瞬の出来事が起きたのも雑踏の中だった。(隠岐支局長・鎌田剛)
2014年6月14日、安倍首相(当時)は地域活性化に向けた企業や住民の取り組みを視察するため東京から日帰りで島根、鳥取両県を訪問した。
この日は土曜日で、仕事は休みだった。買い物のついでに境港市竹内団地の夢みなとタワーにあった「みなとまち商店街」へ寄った。イベントをやっていたのか、当時、撮影した写真を見ると綿あめを保育園児だった長女(6)に買っていた。
周囲がざわつき、スーツ姿の人が増える。「安倍さんが来るらしい」という声が聞こえ、出入り口に住民が集まり出した。
周辺には海上保安庁の巡視船が浮かび、タワー内は一般入場者が立ち入り禁止となった。黒塗りの車列が到着し、後を追う東京から来た番記者たちの人垣が中へ入っていった。
仕事柄、何度も安倍首相を見たことはあったが、せっかくなので出入り口から50メートルほど離れた歩道で娘と様子を見ることにした。品川ナンバーのセンチュリーが出入り口に横付けされる。
遠目にでも姿が見えるかなとのぞき込んでいると、大勢のSPに囲まれながら安倍氏がこちら側に向かって歩いてきた。
SPは「下がって、下がって」と距離を置くように指示するが、安倍氏は自らどんどん距離を詰めて、住民たちと次々に握手を交わす。
「お父さん、いいカメラ持っているね。写真、撮りましょうか」
安倍氏は私が首から提げた一眼レフカメラを見つけるや娘の肩に手をやり、引き寄せて記念写真を促した。5、6枚シャッターを切ると、他の住民と握手をして先回りしたセンチュリーに乗って去って行った。
結局、50人ほどいた観衆の中で記念写真に収まったのはうちの娘だけだった。後に周囲からは「きっと自分に子どもがいない分、かわいらしく見えたのではないか」と言われたが真相は定かではない。
選挙の直前でも、政局でもなかった当時、わざわざ一人一人と握手したのは「人柄」だからだろう。8年が過ぎ、中学2年になった娘に写真を見せて思い出を聞くと「記憶にない」と答えた。













