米ニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、加盟国の総意を示す最終文書を採択できずに閉幕した。改定を重ねた最終文書案にロシアが土壇場で反対し、加盟国のコンセンサスが成立しなかったためだ。

 反対の理由は、ウクライナに侵攻したロシア軍が占拠するザポロジエ原発を巡る記述への不満のほか、ソ連解体時、核兵器を手放したウクライナにロシアが与えた安全保障の約束が守られていないと示唆した文言に反発したためとみられる。

 半年前に始まったロシアの侵攻が4週間の議論に暗い影を落とし、国際的な核軍縮・不拡散の「礎石」であるNPT体制に打撃を与える結末となった。

 しかもNPT体制の維持・強化が目的の再検討会議は前回2015年も文書採択に失敗しており、2回連続の決裂は52年にわたるNPTの歴史の中で初めての出来事だ。

 ロシア代表団は閉幕前の議論で、最終文書案の一部が「あからさまに政治的だ」と述べた。

 だが実態は、ザポロジエ原発周辺への砲撃で外部電源を一時喪失するなど現場は極めて危険な状態にある。ロシアはウクライナの主権や領土的一体性を侵害しており、文書案の表現は客観的に見て妥当なものだろう。

 理不尽な理屈を並べて合意形成を阻み、核威嚇のシグナルを発し続けるロシアを改めて厳しく非難したい。そして占領地をすぐに解放し、即時撤兵することをプーチン大統領に求めたい。また決裂でダメージを被ったNPT体制の再生へ向け、「責任ある核保有国」として建設的な態度に転じるよう強く促したい。

 今回の再検討会議は、日本への原爆投下で始まった人類と核の歴史が重大局面を迎える中で開催された。その最大の要因は、核どう喝を後ろ盾にしたロシアが進めるウクライナでの戦争だ。

 プーチン氏は侵攻直後に核戦力部隊の警戒態勢を引き上げ、彼を含む首脳部は西側の直接的軍事介入には核で応戦する可能性を再三示してきた。

 こうした事態を念頭にグテレス国連事務総長も再検討会議の開幕時、世界が冷戦期以来の核危機に直面しているとの認識を表明した。そして今回の会議が「人類を核なき世界へと導く機会となる」と言明していた。

 一方アジアに目をやれば、台湾海峡を巡る米中間の緊張も潜在的な核リスクを高めている。NPTなどの場を通じ両国が意思疎通を図ることは軍縮の糸口を見つける機会となるはずだ。

 決裂はしたものの、議論の積み重ねである最終文書案には「核廃絶までの間、締約国は核兵器が二度と使われないためあらゆる策を尽くす」との言葉が盛り込まれた。

 また日本が主導する形で、核保有国が核兵器の数量や核政策、軍事ドクトリンなどをNPTのプロセスで報告する新たなメカニズムも文書案に記載され、「核の透明性」を高める政策論議の前進をうかがわせた。

 ロシアの反対さえなければ、進展が期待できる軍縮措置がほかにも文書案に盛り込まれており、今後の進展にいちるの望みをつないだ。

 再検討会議の冒頭で演説した岸田文雄首相は今回の失敗と結果を検証する先頭に立ち、核危機回避へ向けた関係国との協働に次なる歩を進めてもらいたい。