日本維新の会は、新たな代表に馬場伸幸氏を選出した。馬場氏は「自民党に対峙(たいじ)できる政党に大きく育てる」と意気込むが、橋下徹元大阪市長に続き、松井一郎前代表(大阪市長)というカリスマ的存在の創設者が第一線を退き、党の結束を維持するのは容易ではないだろう。
悲願の「全国政党」になるには、党をまとめていく指導力はもちろん、2度の住民投票で否決された看板の「大阪都構想」に代わる骨太の基本政策を早急に打ち出し、「脱大阪」を図らなければならない。同時に、国会対応で自民、公明両党に同調する場面が多かった党のスタンスを見つめ直すことも必要だ。
初めての代表選は、先の参院選の比例代表で、立憲民主党を抜き野党第1党に躍り出た直後ながら、国民の注目は集まらなかった。自身を「8番、キャッチャー」と例えるように、知名度や発信力が高いとは言い難い馬場新代表は、厳しい党運営を迫られよう。
維新は2010年に当時の橋下大阪府知事(後に市長)らが立ち上げた地域政党「大阪維新の会」が母体となり、12年に結成された。「身を切る改革」を旗印に、昨年の衆院選で躍進。参院選でも改選議席を倍増させ、衆参両院議員62人の集団に成長した。
強みは、大阪で知事と市長を握り、府、市議会で多数派を占め、維新の統治の姿を具体的に示している点だ。新型コロナウイルス対応でも、副代表だった吉村洋文知事の陣頭指揮が当初は好感された。だが、長期にわたる感染拡大では、事実上の医療崩壊を招くこともあり、死者数は全国でトップ、「大阪モデル」にも陰りが見える。
松井氏の後継指名で〝禅譲〟色も濃い馬場氏の課題は、政策力と組織力の強化だ。参院選では憲法9条への自衛隊の明記、防衛費の対国内総生産(GDP)比2%への増額を主張、保守票の取り込みを狙った。ただ、防衛費大幅増をはじめ教育、出産費用の無償化などの公約を実現するための財源は、身を切る改革だけでは捻出できない。
馬場氏は「税と社会保障の一体改革や働き方改革の推進を全てパッケージにした日本大改革プランを政権構想に掲げたい」と語る。党勢拡大には、財源に裏打ちされた現実的な魅力ある政策を磨き、ウイングを広げることが不可欠だ。
参院選の選挙区で獲得した議席が大阪、兵庫、神奈川にとどまったように、関西以外の有権者にすれば、維新は「大阪の政党」に映る。来春の統一地方選で600人の地方議員を誕生させる目標を掲げており、各地域の課題の取り組みに、維新らしさを落とし込めるかが鍵となる。
維新は、橋下、松井両氏と、安倍晋三元首相、菅義偉前首相の親密な関係を基に、これまで国会対応で与党と足並みをそろえ、立憲民主などの野党を激しく攻撃、与党の「補完勢力」ともやゆされた。巨大都市の行政を担っている自負からか、独善的な姿勢も見えた。
馬場氏は松井前代表の路線を継承していく考えを示したが、野党を名乗るならば、政権を厳しくチェックする役割を忘れてはいけない。野党の臨時国会召集要求に否定的立場をとるのではなく、時には共闘する謙虚さも求められる。一つの時代の終焉(しゅうえん)を経た、新しい維新像を打ち出すときだ。