夏休みが終わリ、登校が憂うつだと感じる子どもは少なくないだろう。内閣府の「自殺対策白書」は、長期休み明けは子どもたちが大きなプレッシャーや精神的動揺が生じやすい時期として、注意を呼びかける。憂うつな気持ちや不安を感じたときに、子ども自身や親はどうすればいいのか。島根大学医学部付属病院(出雲市塩冶町)精神科で、子どものこころ診療部長を務める林田麻衣子医師(44)に、対処方法を聞いた。(情報部・広木優弥)
◆体が気持ちをコントロール。規則正しい生活を
島根県は児童1千人あたりの不登校者数が、沖縄県に次いで全国2位(2020年調査)でした。不登校にはいろいろな要因が考えられますが、そのきっかけの一つとして挙げられるのが「長期休み明け」の変化です。このことは、内閣府が毎年発表する「自殺対策白書」で注意喚起されています。
年代問わず生活習慣が乱れると体、心の双方に不調が出やすくなります。そして、長期休みはどうしても子どもたちの生活リズムが乱れやすくなる傾向があります。まずは栄養バランスの整った食事を三食とり、夜はしっかり寝て、適切な運動をする、といった規則正しい生活を心がけることが大切です。
ただ、生活リズムを無理に戻そうとすると、それだけ体に負担がかかります。「気持ち」はどうしても体の状況にコントロールされるので、無理せず、自分のペースで整えるのが望ましいです。
◆子どもへのメッセージ。順風満帆に見えて、みんな同じ悩みを抱えている
不安になること、落ち込むこと、イライラすることは「自分だけではない」と理解することや、人と比較しすぎないことが重要です。
友だちはスポーツも勉強もでき、うまいことやっている様に見えます。でもそんなことはありません。順風満帆に見えても、同じように悩みを抱えているものです。
つらいときは、信頼できる相手に「助けて」と素直に言えることが重要です。大人になったら、仕事は一人ではできず、助け合いになります。幼いうちからそういう経験を重ねておけば、大人になってからも苦労しません。
最近は、自分への慈しみを意味する「セルフコンパッション」という考え方が浸透しつつあります。自分に優しく、ダメな自分を受け入れることで、ストレスのかかる状況でも、前向きな気持ちを持ち続けられるよう、心理を誘導する方法です。
つらいことも含め自分の気持ちを知ることと、甘やかすことが大切です。紙に書き出すと可視化されるのでおすすめです。
◆親へのメッセージ。受け入れるスタンスを崩さないで
保護者の対応は「状況を見る、話を聞く、困っていたらつなぐ」が3原則です。子どものささいな変化に気付いてほしいです。表情が暗い、寝付きが悪い、ご飯を食べない、イライラしている、口数が減るなど、普段と違う行動が子どもの心の不調につながっていることが多くあります。
空振りになっても、少しでも様子が違うなと思ったら話しかけてください。不安がある子どもは特に、誰かに心配されていることに気付きません。「あなたを気に掛けているんだよ」ということを、行動で示すことが、子の安心感につながります。
思春期を迎える子どもたちは完璧を求める時期です。スーパーマンや宇宙飛行士といった、幼い頃の夢をかなえるのは「ちょっと無理かも」と気付き始めます。自分を受け入れる成長の過程で、どうしても自尊心を失いがちになります。
これくらいの年頃の子が、親から心配する言葉を掛けられると、強がって「なんでもない」と答えることもありえます。そんなときに「聞いて損した」といったたぐいの返答はしないでください。余計に反感を買います。
強がった言葉が返ってきたら「本当ならいいけど、何かあったら言ってね」とか「年頃の子は心配だから」などと言って、受け入れるスタンスを崩さないことが大事です。
◆ネガティブな感情は、口に出すのが怖いもの。「よく言えたね」と褒めてあげて
親はどっしりと構えることも大切です。子どもが「学校行きたくない」「死にたい」と話すと、動揺するはずですが、ぐっとこらえましょう。子どもの方がつらい思いをしていますし、内容を親に話すことは、とても勇気がいることです。話した内容を否定せず「大変なのによく1人でここまで頑張ってきたね」とねぎらってください。
適切な支援機関につなぐことも親の役目です。学校に行くのが嫌だということは、学校に何か関連があるのが自然です。
連携がとれていれば、担任の先生でもいいですし、今はスクールソーシャルワーカーという立場の方が、各学校にいます。子どもが学校に行く、行かないにかかわらず、「子どもがこんな感じです」といった相談はしたほうがいいです。
文部科学省は「不登校児童生徒への支援の在り方について」という2019年秋の通知文書で、「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」としています。
親の気持ちとして、「子どもを学校に行かせなければいけない」という前提が頭から離れないこともあるかもしれません。一般論で硬直的な論理で諭すより、子どもの気持ちを受け止めてあげましょう。子どもが最も信頼するのは親であるはずですから。受け止められるだけで子どもはうれしいですし、回復につながることもあります。最悪の事態を避けるには、無理をさせないことが何より大事です。
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はやしだ・まいこ 2009年から島根大学医学部付属病院精神科に勤務。17年同科講師、19年より現職。専門は児童思春期精神医学、周産期精神医学。













