北海道や東北、北陸で8月上旬、大雨があった。20地点の24時間降水量が観測史上1位を更新、広範囲で浸水被害が発生した。地球温暖化の影響が顕在化してきたと考え、備えを計画的に充実させなければならない。

 気温が2度上昇すれば、全国平均で降雨量が約1・1倍に、川を流れる水量も約1・2倍になると予想される。これに対応するため、国土交通省はダムや堤防だけに頼らない「流域全体での治水」を打ち出し、対策を始めている。

 この結果、島根県の江の川や熊本県の球磨川の流域のように、被害を何度も受けた場所では集団移転の動きも出ている。安全な地域を探して移るのは最も効果的な対策だ。国や自治体は積極的に推進してほしい。

 人口減少が続く地域では、街の中心に集まって住むコンパクト化が推奨されている。その際には災害の可能性も視野に入れ、安全度と持続性を同時に高めることが不可欠だ。首長らが積極的に取り組むことを期待したい。

 東京都は今年5月、首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直した。被害が最大のケースだと、想定される死者数は9641人から6148人に減った。古い住宅の建て替えで耐震化率が上がった成果だと言える。

 政府や自治体の地震対策は、住宅の耐震化、津波を防ぐ防潮堤や避難タワーの整備、住民避難の徹底を柱に進められてきた。東日本大震災を契機に対策を充実させたことで、死者数や建物の被害を減らせるめどが立ってきたと評価できるだろう。

 南海トラフ巨大地震による津波対策として、和歌山県串本町では役場や病院、消防署などが高台に移転した。このような施設の移転は有効であり、今後も促進すべきだ。

 一方で、社会の変化に伴って災害の姿も変容する。思いもよらない事態が起きる可能性は常にあると注意喚起したい。

 例えば、インターネットやスマートフォンが普及し社会に欠かせない存在となった。通信設備が被災や停電によって長い間使えなくなれば、仕事や日常生活に致命的な影響を与えかねない。経済をまひさせる恐れもある。

 エレベーターが使えなくなれば、林立するタワーマンションの上層階に住む人が孤立する。高層化が新たな避難民を生み出す可能性もあるのだ。

 交通、電気、水道といった社会基盤やライフラインの損傷がもたらす影響が長期化すれば、首都機能の維持さえ難しくなる。これを回避するには、被害の軽減策を事前に最大限実行し、早期の復旧策を検討しておくことが欠かせない。

 課題はまだある。地震が起き、新幹線などの鉄道や高速道路で大事故が起きた場合の具体的な対応は決まっていない。地震発生後の「出たとこ勝負」は避けなければならない。

 そのためには毎年、9月1日の「防災の日」に合わせ、起こりうる事態を全て洗い出し、対応策の内容や実施状況を総点検することを提案したい。「想定外」をなくすための作業だ。

 国と地方の借金は合わせて1200兆円を超える。大災害があっても東日本大震災後のような手厚い復旧・復興支援は難しいかもしれない。戦略的に備えることで災害に強く、すぐに立ち直ることができる強靱(きょうじん)な社会づくりが、素早い復興につながる。