日本が液化天然ガス(LNG)輸入の約1割を依存するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の運営が新会社に移管された。出資や事業の継続の先行きが混沌(こんとん)としていたが、とりあえず日本の権益は維持できる見通しになった。
三井物産、三菱商事の新会社への出資が承認され、東京電力と中部電力がつくるJERA(ジェラ)や東京ガス、九州電力などが、サハリン2からの調達を継続する契約を新会社と結んだ。
一時は、ロシア側に「接収」されかねないとの懸念が広がったが、好転の兆しがうかがえる状況になった。しかしサハリン2の新会社への移管が、ロシアへの経済制裁に加わった日本に対するけん制であるならば、気を緩めることはできない。
新会社に運営が移ることになり、権益を失う場合に備えた代替調達のため、日本政府やエネルギー企業はガス産出国との交渉を急いだ。だが日本を惑わすことだけが、新会社の目的ではないだろう。ロシアは天然ガス供給停止でドイツに揺さぶりをかけている。日本に対しても、どこかの時点で、実質的なダメージを与えようとしているのではないか。
日本は新会社移管による実害を被っておらず、ロシア側もまだ何も得ていない。サハリン2を巡る駆け引きはまだ続くと考えた方がいい。
ロシアは新会社に出資するすべての企業が決まった後の1カ月間で、株主が守るべきルールなどの条件を確定する方針だ。日本側が著しく不利になる何らかの条件を押し付けてくる恐れは十分ある。警戒を続けると同時に、エネルギー調達の「脱ロシア」を加速したい。
出資企業の権益が維持され、顧客もこれまでと同じ条件でLNGを調達できる流れに傾いている。だが「非常にいい」(西村康稔経済産業相)と、喜んでばかりでは危うい。しっかりとした考察・分析が必要だ。
なぜロシア側は日本の権益維持を認めたのか。日本の有力な販売先をつなぎとめ天然ガスの売却益を維持するためとの見方もあるが、真意ははっきりしない。米欧の政府や関係企業と協力し、ロシアの国内情勢や戦略に変化があるのかどうか見極めることに全力を挙げるべきだ。
どう考えても受け入れられない条件変更を、ロシア側が突き付けてきた場合の対応も十分検討しておかねばならない。日本の対応が米欧の理解を得られず、対ロ包囲網の結束にひびが入れば、それこそロシアの思うつぼだ。
もはや「脱ロシア」は、時間をかけて構築する長期戦略ではなくなっている。少しでも早く実現すべき緊急課題に変質しつつある。当面は、天然ガスの主要な輸入先であり、友好国でもあるオーストラリアや米国からの輸入量を増やすことが、現実的な対応だろう。






 
  






