安倍晋三元首相銃撃事件の背景として浮かび上がった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題を受け、政府の関係省庁連絡会議が今月5日から30日までの約1カ月間を被害相談の「集中強化期間」として合同電話相談窓口などを開設する。
法務省、警察庁、消費者庁などの担当者が1カ所に集まり、連携して相談に対応、悪質商法などの被害救済を進める狙い。被害の訴えに耳を澄まし、実態把握に努めることに異論はない。問題はそれをどう生かし、どれだけ実効性がある対策を打ち出せるかだ。
旧統一教会と自民党議員らのつながりに世論の厳しい視線が注がれ、内閣支持率の下落傾向が顕著になる中、省庁連絡会議に続いて消費者庁の対策検討会もスタートしている。いずれも批判をかわすためのポーズに終わらせてはならない。
岸田文雄首相は8月31日の記者会見で「政府を挙げて被害者の救済に全力で取り組む」と約束した。救済にとどまらず、根絶に向けた抜本的対策を早期に示すべきだ。
先祖供養などの名目で高額なつぼや印鑑などを販売する霊感商法や高額献金は、1980年代から社会問題化した。87年には全国霊感商法対策弁護士連絡会が結成され、元信者らが旧統一教会側に損害賠償を求める訴訟が相次いだ。
最高裁は97年、この問題で初判断を示し、霊感商法や高額献金勧誘の違法性と勧誘者に対する教団の使用者責任を認め教団側の敗訴が確定した。当時、各地で係争中だった30件以上の同種訴訟に大きな影響を与えた。
遅くてもこの時点で、民事的に教団側の非を認める流れが固まったと言っていいだろう。それなのになぜ、問題を根絶できなかったのか。歴代政権の対応を検証し、教訓を対策に生かすべきだ。
2009年には刑事でも追及を受け、不安をあおって印鑑購入を迫ったとする特定商取引法違反事件が摘発され、印鑑販売会社社長の信者らが逮捕、起訴された。有罪判決は「信者を増やすことを目的に印鑑販売を行った。相当高度な組織性が認められる」と認定した。
霊感商法などについて、教団としては「過去も現在も行ったことはない」との立場だ。「一部教会員(信者)の行き過ぎた活動」とし「09年には教団が責任をもって指導することを宣言した」と説明。以降のトラブルはごくわずかとしている。
一方で弁護士連絡会は、同年以降も教団に関係する被害は続き、相談額は約175億円に上るとしている。政府には実態の特定を急いでもらいたい。
近年はトラブルの中心が霊感商法から高額献金に移っているとされる。霊感商法は物品販売だが、献金は信仰に基づく寄付で規制は難しい。「献金トラブルで教団側は一部を返金し、残りの請求権を放棄させる合意書を作成することが増えている。これが訴訟を起こしにくくしている」との指摘もある。
献金の実態に問題があるなら宗教法人としての在り方の議論も必要だ。それなのに宗教法人を所管する文化庁は、省庁連絡会議に参加していない。直ちに加わるべきだ。
弁護士連絡会には「一定の基準を設けて、違反する場合は宗教法人の免税特権を認めない制度」を求める意見などもある。慎重かつ踏み込んだ議論を期待したい。