バスケットボールファンにとって楽しみなシーズンが近づいてきた。プロバスケットボール男子Bリーグ1部、2部チームによるプレシーズンマッチが始まり、10月からの新シーズン開幕に向け、チームは本格的な調整に入る。プレシーズンマッチでは試合の感覚を取り戻して、新しいシーズンの戦術を試し、新メンバーをチームに慣らす機会になる。
島根スサノオマジックが新しいシーズンをどう戦うのか。優勝を目指すためには、昨シーズンのチーム力にプラスアルファが必要になる。新シーズンを迎えるチームの見所をバスケット選手経験のある筆者の視点から分かりやすく紹介する。
島根スサノオマジックの新しいシーズンを展望するにはチームの総合力、ディフェンス、オフェンス、新戦力の4つがポイントになる。<中>ではバズソーの核になるディフェンスからチームの総合力について解説してみたい。(敬称略)
【関連】強さの秘密は? 新陣容でどう戦う!? 島根スサノオマジック 新シーズン展望<上>
▽ディフェンス
ディフェンスでは、島根のマンツーマンディフェンスは強力でB1トップレベルだ。このディフェンス力がポール・ヘナレ監督の戦術「バズソー」の核をなしている。バズソーは強いディフェンスで相手を苦しめて、ボールを奪い、速い攻撃で得点を奪う戦術。それには強いディフェンスは大前提で、そこに速い攻撃を展開できる走る力と、オフェンスの速い判断力、シュート力が求められる。

<上>で指摘したように日本のBリーグチームの外国人選手はヨーロッパリーグなどでプレーした比較的年齢の高い選手が多い。身長は高く体格もいいが、弱点は、走れない、体力がないこと。バズソーはそこで、しっかりしたディフェンスを仕掛け、速い展開に持ち込み、走れない相手を倒す。相手チームにとってはものすごく嫌な戦術だ。
では、なぜ島根はディフェンスが強力なのか。
島根の1対1で守るマンツーマンディフェンスは日本人、外国人ともに強い。マンツーマンディフェンスで守るには、とにかくディフェンスの「足」が必要だ。バスケットではディフェンスの足はサイドステップという、卓球の選手が練習しているような足の使い方が必要になる。これは、よほど足の筋肉が強い人を除けば、地道に練習で身につけるしかない。
自分がマークしている相手が右に行くか、左に行くか、シュートを打つか、これを瞬間的に判断して、止めなくてはいけない。これには足を広げてカニ歩きのようにして素早く動かないと止められない。足がクロスしてしまうと、その瞬間に相手に逆を取られる。このカニ歩きが速く、強くできるということが求められる。反応の速さが求められる卓球の選手も同じだと思う。

米国の練習で「ハンズ・アップ・ドリル」というものがある。シュートを打たれないように片手を挙げて、サイドステップで右左前後と方向を変えながら、練習する。とてもハードな練習だ。このような地道な練習を重ねた選手のディフェンス力は強い。中学、高校、大学のチームカラーやサボったりして、この地道な練習をしていない選手もいる。1年練習したから成果の出るものではなく、ここが大きなポイントだ。
島根の安藤誓哉、白濱僚祐、阿部諒の日本人選手はこの強い「足」を持っていて、攻撃に転じた時のスピードもある。
▽外国人選手のディフェンスが強い
外国人選手のペリン・ビュフォードも、ディフェンスの足はすごくいい。相手チームのポイントゲッターの外国人選手や日本人選手をしっかり抑えてくれる。リード・トラビスもサイドステップは力強く、体格がいいので、相手チームの主力センターと押し合いで負けない。頼もしい存在だ。


オーストラリア代表のニック・ケイは、ディフェンスのうまさはもう最高レベル。元日本代表で日本一の3Pシューターと言われた折茂武彦が、Bリーグのセンターで一番うまい選手としてケイを挙げ「むちゃくちゃうまい」と評価していた。
相手センターをサイドステップで力強く守り、味方のディフェンスが破られるとすぐにカバーする。リバウンドのポジションを相手センターとカラダをぶつけながら取り合う。ディフェンスの貢献度はものすごく高い。

ケイはオフェンス、ディフェンスともにうまく、走れてシュートも入る。東京五輪で銅メダルを獲得したオーストラリア代表チームのキャプテンが、島根にいてくれるなんて、もう驚きでしかない。
▽ケイは大活躍の予感
来日1年目の昨シーズンは日本の生活やチームに、いろいろと戸惑うことも多かったと思う。来日2年目の新シーズンは暮らしにも慣れ、相手チームのことも分かってきたと思う。新シーズンは爆発的な活躍を見せてくれるのではないかと、ものすごく期待しているし、その可能性がある。
何より島根に残ったということは、監督の戦術に賛同し、チームのメンバーとより高い目標を狙えると判断してくれたのだと思う。そう考えると、ワクワクするし、応援したくなる。
▽日本代表に招集されたニカは「大化け」するか
ウィリアムス・ニカは、8月のイラン代表とのゲーム2試合で日本代表に招集され、レギュラーで出場した。昨シーズンのチャンピオンシップ(CS)を日本男子代表のトム・ホーバス監督(東京五輪では、日本女子代表の監督として銀メダルに導いた)が見ていたのだと思う。ディフェンス、リバウンドをしっかり頑張り、チャンスがあれば、速攻にも参加する。チームに献身的にプレーする姿が評価されたのだろう。

日本国籍を持つニック・ファジーカス(川崎)が不在だったから、という事情を差し引いても、男子の日本代表は来年、日本で開催されるワールドカップを控え、とにかく「勝利」がほしい。そのギリギリの中で代表に選ばれ、レギュラーで出場したということは評価されたということ。試合を見ても落ち着いてプレーしていた。
島根ファンとしては、びっくりしたし、うれしかった。日本代表は米国にいる八村塁や渡辺雄太、ファジーカスがいないと、センターポジションが弱い。ニカは代表のゲームでゴール近辺でのシュートも落ち着いて決めていた。うまくなったと感じた。代表の練習で、いろいろ学ぶこともあったのではないかと思う。今シーズンは「大化け」を期待したい。
▽ほかのチームにはできない戦術
島根の一丸となって守る、ディフェンスは各チームにとって驚異だ。では他チームはこのディフェンスをやれば、いいじゃないかと思うが、これがそう簡単にはいかない。先ほど説明したディフェンスの足がないと、逆を取られたりして、すぐに守りが崩されてしまうからだ。

多くのチームが、そこまで厳しく当たらずに、3点シューターへの守備を除けば、3点エリア内でコンパクトに守っているのは、そうした理由がある。5人でコンパクトに守れば、オフェンスの攻撃できるスペースを狭くすることができ、攻撃しにくくなる。多くのチームがディフェンスではこの戦術をとっている。
島根のディフェンスは昨シーズンでほぼ完成されているように感じた。ではこれが新シーズンでどうなるのか。おそらくより強いものになってくるのではないかと思う。磨きをかけてくるのではと注目する。
例えば、ハーフコートのディフェンスではより強く、激しく相手に圧力をかけ、その厳しいマークを外すために相手オフェンスがスクリーンを使おうとすると、島根は連携して、スクリーンを外し、カバーして守る。
さらに前のシーズンでも見せていたが、ハーフコートではなく、オールコートに近いディフェンスを仕掛け、相手にプレッシャーをかける。相手はガードが厳しくプレッシャーをかけられると、外国人の背の高い選手に一度、ボールをつなごうとするが、島根の場合、外国人選手が動けるので、こうしたつなぐパスをカットし、攻撃に転じることができる。
この、より強化されたディフェンスが見られるのではないか。オールコートでなくてもコートの7割を占めるようなディフェンスが展開されれば、相手チームにとっては、やっかいだ。
つまり、相手チームがオフェンスになると、島根の選手は相手を追いかけ回すという感じになる。これは相手の連携プレーを阻止し、精神的にも体力的にも疲れさせる。第2クォーターの終盤や第3、第4クォーターの終盤に相手のミスを誘い、一気に突き放すことができる。相手チームはこれをやられると、防ぐ方法がない。恐ろしいディフェンスだ。
▽ゾーンディフェンスの効果もある
バスケットではディフェンスの戦術としてマンツーマンのほかにゾーンディフェンスがある。ゾーンディフェンスは、マンツーマンが人を決めて守るのに対して、ディフェンス一人が守るエリアを決めておくもの。昨シーズン後半から採用されるようになってきた。
試合を見ていて、ディフェンスの切り換えが分かりにくいと思う。島根なら安藤が一人の選手をずっとマークしているかどうかで、見分けられる。
厳しいマンツーマンからゾーンディフェンスに転じられると、相手チームは一瞬戸惑う。背の高い外国人選手の中には、ゾーンディフェンスになっていると気がつかず、攻めて、囲まれ苦し紛れのシュートを打つケースもある。ゾーンディフェンスだとインサイドをかためることができる。1回でも2回でも、相手が戸惑ってくれればチャンスができる。
そして、ゾーンディフェンスから、また激しいマンツーマンディフェンスに転じると、ゾーンディフェンスに慣れた相手がまた戸惑う。ディフェンスの変化は戦術の幅を広げる。競り合った場面で短時間、採用されることがありそうだ。

津山尚大、谷口大智の新戦力を補強したのは、激しいディフェンスをする島根で、ゲームに出場してもチーム力が落ちないよう選手層を厚くしたと考える。外国人選手は3人いるので1人は休むことができる。安藤や白濱、ニカが1クォーターで1分から2分でもひと息入れることができれば、集中力を取り戻して試合に戻ることができる。
スピードが求められる今のバスケットではレギュラーの5人だけで戦うことはなく、8人から10人くらいの選手でゲームができれば理想だ。島根はその戦力を整えた。
<下>では注目ポイントのオフェンスを中心に解説し、新戦力についても触れる。
(編集局ニュースセンター 舟越 幹洋)